総合

酒場遺産 ▶27 東京・四谷荒木町 小料理 満まる 戦後の空気残す希少な店

 四谷荒木町は、地下鉄丸ノ内線四谷三丁目駅からすぐ近くに残された、路地が魅力のエリアだ。この辺りはかつて江戸時代には美濃国高須藩藩主松平義行の屋敷があった。その後、屋敷跡地に「策の池」などがつくられ景勝地となり、周辺は、料理屋、待合、置屋などが軒を連ね、芸妓が行きかう町となったという。戦後の昭和30年代の空気を未だに残す希少なエリアだ。

 旬彩小料理「満まる」は、30年近く前に筆者が働いていた会社の大先輩に連れていかれ、先代の大女将を紹介された。20年ほど前に女将が代替わりし、伊藤蘭似の若い女将が継いだ。カウンター8席ほどの小さな店で、入る時には靴を脱ぐ。ギターを抱えた年配の新(シン)さんと、三味線を弾き歌う美大出の若い「歌う漫画家」チエさんだが、二人とも伝統文化の域だった。チエさんは、色紙にさらさらと達者な客の似顔絵を描き、それらは店の壁にズラリと貼られている。すでに新さんは亡くなり、チエさんはお母さんになった。懐かしい。

 料理は、生もづく酢、卯の花、玉蒟蒻、じゃこ天、オムレツ、納豆オムレツ、イワシ丸干し、うなぎくりから、金華鯖干し、かじきのハモニカ焼きなど、どれも丁寧につくられて美味く手頃な価格だ。日本酒の種類も多くはないが厳選されたもの。澤ノ井大辛口650円、大七生酛750円、太陽 特別純米秘蔵酒1000円、太陽 純米吟醸赤石1100円(明石)、あさ開夢灯り900円、あさ開純米800円。正一合だが、プラス200円で一合半と書かれているが、二合ほどありそうな大きめの受け枡になみなみと注いでくれる。車力門通りを進み、左手の路地を曲がった左手にひっそりと建つ。(似内志朗)