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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇107  残る昭和の価値観 野田聖子議員が「女性塾」で講演 不安な日本の未来に挑む

 日本の未来に不安を抱く若者が増えている。その不安の根源に迫らずして、これからの住宅・不動産業の方向性を見出すことは難しい。その意味で第36回不動産女性塾で講演した野田聖子衆院議員の話が大きな示唆となった。

 「今の日本は未だに多くの制度が〝昭和の幻影〟を引きずっていることに根本的問題がある」と指摘し、その象徴として根強い男女間格差を挙げた。

 例えば母子世帯の平均収入は236万円だが、父子世帯は496万円と2倍以上の差がある。これは母子世帯で母親が正規社員というのは53%なのに対し、父子世帯の父親は92%という雇用関係の差が大きく影響している。

 また、一人親世帯の約9割が母子世帯だが、別れた父親から養育費を受け取っている割合は28%に過ぎない。これについて野田氏は「養育費を払わないのは犯罪とみなされる諸外国に比べると、信じられない低さ。男性に寛容な〝昭和日本〟ならではの悪習」と厳しく批判する。

 日本は3組に1組が離婚しているが、その大きな原因といわれるDVについても「夫の暴力に対し、日本の法律は甘い」と怒る。その法律をつくる国会議員の9割が男性というのも昭和の価値観が政界に残っているからだろう。

 野田氏は日本人の目に見えない変化への鈍感さも指摘する。「毎年80万人という鳥取県の人口に匹敵する規模で人口が減少していても、ほとんどの日本人がその危うさに気付いていない。いずれ日本人労働者だけでは社会が回らなくなる」と警告する。

 不動産業界についても「人口減少下でも不動産価格は値上がりし活況だと安心しているが、今は大都市の不動産が世界のマーケットになっているからに過ぎない」と。大都市東京の高齢化はこれから本格化する。そのとき、どのような暗黒が待っているのか、まだ誰の眼にも見えていないことを示唆したのではないだろうか。

 広島大学名誉教授の町田宗鳳氏も同様の指摘を行っている。「日本人は抽象的思考が苦手。そのかわり目に見える具体的なモノには敏感に反応し納得する民族だ」と。明治維新以降、日本の住まいが急速に西洋化していったのはその好例だろう。

業界も始動

 もちろん、不動産業界にも日本の未来に真摯な目を向ける人たちがいる。その一つ、不動産流通プロフェッショナル協会(FRP)は流通業界を真のプロフェッショナル群にすべく昨年から本格的活動を始めている。今週の12月14日には第1回目の「未来講座」を開く。

 その趣旨について同協会代表の真鍋氏はこう語る。

 「これから世の中が、業界が、宅建士の仕事がどうなっていくか、近未来を見据え考えていきたい。若い気鋭の講師を招き、新しい情報やスキル、知見を学び取りながら、個々のプレイヤーが意識改革を行い、その想いが会社を変え、世の中の役に立つ業界にしていくための講座とする」。

 第1回目の講師はGOGENの和田浩明CEOとニッセイ基礎研究所の佐久間誠主任研究員が務める(申し込みは同協会HP参照)。

 同協会顧問でセゾンリアルティ代表取締役会長の竹井英久氏は日本の未来を見据えたとき最も懸念することについてこう語る。

 「不動産業は拡大には強いが、縮小には弱い。その意味で気になるのは地方での不動産分野の担い手がどうなるかだ。100万円しない住宅の売買を誰が仲介するのか、買い手のない土地をどうするか、民間だけでは解決しそうにない」

 「郵便局のようなユニバーサルサービスを行う企業が不動産も扱うとか、不要になった土地を畳むための権利調整や利用転換をしていく機能を行政で内製化していくことも必要かもしれない」

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 目に見えるものでしか納得しない日本人の欠点を美点に変える方法がある。それは明治以降、西洋化一辺倒できた日本の住まい造りに和風文化を取り戻し、日本人ならではの感性と創造力をよみがえらせることである。