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不動産ビジネス塾 売買仲介 初級編(39) ~畑中学 取引実践ポイント~ プロは仕事に緊張感を持て「他士業との協業」に潜む油断

 協働する他士業を選ぶにあたっての重要な指標は「不動産取引の流れを理解して、仕事に緊張感がある人」だろう。最適解ではないかもしれないが、最善解であることには違いない。

 不動産取引で関係する他士業は多い。代表的なのが登記を行う司法書士、測量や表示登記を行う土地家屋調査士、建築や諸検査を行う一級建築士など。

 その他には税額算出や申告を行う税理士、鑑定評価をする不動産鑑定士、トラブル対策を行う弁護士、士業ではないが火災保険を扱う保険代理店だ。場面ごとに各士業に手続きをお任せすることになる。ただ、各士業も数多くいるので、私たち宅建業者の視点、顧客側の視点の2つで選ぶことになる。

 まず顧客側の視点では、(1)費用、(2)安心感の2点だろう。顧客は、安心感は依頼をしてみないと分からないので、最初は見積書の(1)費用でしか判断しない。ただ、依頼をすると確実に士業が与える安心感を厳しく見ており、中には「もう少し費用が高くても違う先生にすればよかった」と不満をもらす人もいる。やはり慣れない不動産取引であるので、費用の安さと同等か、それ以上に手続きの安心感を求めている。

 私たちも紹介する際は最低限の安心感を与えられる士業を選んだほうが良いだろう。その安心感とは業務の説明がうまく、キビキビと動き、顧客と会話のキャッチボールができることなのだが、つまるところ、顧客がどう考えているかアンテナを張って対応できる「仕事に緊張感がある人」なのだと思う。

 筆者もかつて顧客に紹介した司法書士が2日酔いで現れて口がモゴモゴして聞き取れない登記の説明をし出したら、顧客から強い口調で「この先生で登記は間違いないのですか」と言われ平謝りしたことがある。大事な不動産取引の場で緩慢な動きと聞き取れない説明が怒りを誘ったようだ。仕事には緊張感がないとダメだ。

 一方で宅建業者の視点では不動産取引の流れを理解していない士業は選べない。不動産取引はスムーズに進まないと契約が破談になったり、トラブルとなることが意外に多い。想定したスケジュールどおりスムーズに進むことが重要だ。ただ、士業の中には「それはそれ、こちらはこちら」で動く士業もいるので注意が必要だ。

 春先も売主側の土地家屋調査士による確定測量の結果を待っていたら、決済日の3週間前になっても連絡がない。気になって売主側不動産会社に連絡をしたら大丈夫ですよというばかり。許可を得て土地家屋調査士に連絡すると「あれっ、そんなスケジュールでしたか。厳しいな」と全く決済日まで成果簿を用意する予定になっていなかった。急かして事なきを得たが、そういうこともあるので注意をしたいところだ。

【プロフィール】

 はたなか・おさむ=不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。

 2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。