政策

社説 住宅ローン減税限度額、なぜ下げる 国民に寄り添った減税論議を

 11月に入ると、年末に向けて政府・与党での来年度税制改正議論が活発になる。8月に各省庁から提出されている来年度の税制改正要望をベースに政治的な議論を始めるのだ。政府・与党は、各省庁や関係団体からヒアリングを頻繁に行い、例年12月中旬に与党による税制改正大綱が決定するというスケジュールとなる。このヒアリングに向けて、住宅・不動産業界も税制改正への要望項目を既に公表している団体もある。

 期間延長の要望が目立つ中で、今回の税制改正議論でポイントとなるのは、住宅ローン減税の取り扱いだ。現状を簡単に説明すると、来年から住宅ローン減税の対象になる借入限度額が500万~1000万円ほど下がる。加えて、省エネ基準に適合しない住宅の取得は、一部の例外を除いてローン減税の適用対象から外される。地価が上昇局面にあることに加え、2024年問題を控えた人件費の上昇や資材価格高騰などがあり、住宅取得者の負担が増える要素が多くなっている。省エネ基準に適合しない住宅への対応は時代の潮流を考えると理にかなったものと言えるが、それ以外の住宅については、住宅・不動産業界が少なくとも現状維持を求めるのは当然だろう。

 住宅価格高騰は、一般消費者にも大きな関心事になってきている。先日、今年度上半期の東京23区のマンションの平均価格が初めて1億円を超えたことが話題となった。更に、中古マンションも価格も高騰し、東京23区では1坪単価が400万円を超えた。たった数年で、一般消費者が国民生活の基本である衣食住のうち、住を手に入れることが難しくなってしまった。こうした中で、国民生活の基本を担う産業である住宅・不動産業界が、現状維持を要望することにとどまっているのはいかがなものか。自助努力として手の届きやすい価格の住宅を供給するのはもちろんだが、限界がある。国民生活の基本を担う産業であることを自負するのであれば、政府・与党に対して国民に寄り添った踏み込んだ提案や要望を提示し、政府・与党の議論を喚起していくことも、住宅・不動産業界の大事な役割なのではないか。

 折しも国の税収が増え、減税の原資はある。これに伴い、岸田総理は所得税減税の検討を指示したようだが、減税後の内需波及効果も見据えれば、所得税減税策の一つである住宅ローン減税の拡充も検討の俎上に載せるべきだろう。脱炭素社会を推し進めることに貢献する住宅に対しては、控除対象の拡大や限度額の増加、控除率アップなど思い切った住宅取得支援があってもいいのではないか。脱炭素化という国全体の政策とも合致したものでもある。住宅に対する補助も重要だが、税制は対象が広くなるため政策誘導効果が大きい。期待を込めて、年末にかけての税制改正論議を注視していきたい。