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酒場遺産 ▶22 神田 お多幸神田店 研究熱心な、おでんがうまい店

 寒い季節になると、おでんをつつきたくなる。いや、夏でもおでんが恋しくなる。おでんの店「お多幸」は都内・首都圏にいくつかあるが、神田店は住まいが近いこともあり年に数度訪れる。お多幸は1923年に創業され、48年に銀座で開業、その後日本橋(本店)に移転したという。本店からのれん分けして全国に広がり、いくつかのグループに分かれたらしい。神田店は71年の開業。関東風の濃い出汁が特長だ。おでんの具は豆腐・蒟蒻・ワカメ・干ずいき・つみれ・ハモ天・砂肝など、どれもうまいが、盛合せ4品1050円からはじめるのもいい。最後に頼むのは名物のとうめし(豆腐茶飯)、おでん出し汁をよく煮込んだ大きな豆腐とご飯にかけた庶民的な茶飯だが、これが滅法うまい。創意工夫の凝らされた小皿もいい。店お薦めの「おでんお食事セット」はおでん屋ならでは工夫、牛蒡・独活の金平、蓮根味噌和え・おでん具材ポテサラ、牛蒡・山芋・アスパラの漬物、刺身(鯛昆布締め・マコ鰈・鰹なめろう)、おでんお任せ4種、とうめしで1680円はリーズナブルだ。

 ちろりで出す燗酒は、菊正本醸造1.4合720円、0.8合450円、岐阜の百十郎赤面本辛口純米0.8合580円。冷酒は栄光富士純米大吟醸、月山辛口特別純米などが700~1000円、四合瓶は3000~3800円。職人気質の店長はいつも怖い顔でおでんをつくり、店を仕切るMさんは混んでいる時も席を空けてくれる。いつも満席のこの店だが、お客が疎らなコロナ禍時にもモチベーションを落とさず、様々な創作を生み出す研究熱心な料理人達の姿を思い出す。他のお多幸も訪ねたが、ここが一番気に入っている。(似内志朗)