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社説 定借30年目の議論 土地所有にこだわらないマイホーム

 「土地革命30年目の真実」と題した定期借地権シンポジウムが10月11日、AP東京丸の内で開かれる。主催は全国定期借地借家協会。定期借地権は92年8月の借地借家法施行で誕生した。以来31年が経過し、創設時とは時代環境も不動産をめぐる環境も大きく変わった。そこで、創設当初から関わっている5名のキーパーソン(弁護士、税理士、不動産鑑定士、実務家)らが集い、定期借地権の今日的課題と展望を議論する。

 定期借地権は創設時に期待されたほどの普及には至っていないというのが通説だが、それは戸建て住宅を中心とした話であって、マンションに限定するとやや様相が異なる。東京カンテイによれば、96年~03年までが最盛期で年平均1616戸が供給されたが、04年から10年までは同1314戸とややトーンダウン。その後の11年から16年までが本格的低迷期で同618戸まで落ち込んだ。しかし、17年から22年までは同1310戸と盛り返しつつあるのが特徴だ。

 背景には、都心のマンション用地取得に悩む大手ディベロッパーが、駅前一等地の老舗ビルオーナーや、土地を売ることができない神社や自治体などに対し、「地代一括前払い・70年定借」という魅力を武器に積極攻勢をかけていることがあるようだ。実際キーパーソンの一人である税理士は、「その勢いには目を見張るものがある」と証言する。建て替えを迫られているものの資金のない老朽化した駅前ビル、自治体庁舎、神社仏閣などの増加と都心マンションブームが相まって定期借地権の活用ニーズが高まっている格好だ。ユーザーにとっても土地所有権付きマンションの8割程度で購入できるというメリットがある。

 都内の一等地で定期借地権マンションが盛り返している背景には、やや違った見方もある。それは、そもそもマンションに土地所有権は必要なのかという素朴な疑問を抱く人たちも出始めたということである。むしろわずかな土地持分(敷地権)を多くの区分所有者が持っているからこそ建て替え時期になると問題が多発してくるのではないかという疑念である。定期借地権のように、50~70年後のエンド処理を法律で定めてある定期借地権のほうが合理的ではないかという新たな認識である。

 定期借地権にはこのほかにも、空き家再生、災害マンション復興、若い世代にローン負担の軽い定期借地権住宅を勧めることで地方創生につなげるなど、今日的かつ多様な活用方法がある。また、普及していないとされる戸建てだが、そもそも人口減少を背景に今後は〝負動産〟の大量発生が懸念される中、将来は土地を返却し、その土地の新たな活用方法を残しておくマイホームのあり方についても真剣に考える時期にきているのではないか。個人が土地所有にこだわり続ける限り、空き家問題の本質的解決には至らないとも考える。