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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇92 未来志向を取り戻す 定借シンポ(10月11日)開催へ 目指す持続可能な街づくり

 92年8月の借地借家法施行で誕生した定期借地権は今年31年が経過し、創設当時と今では時代環境が大きく変化している。そこでこれからの定期借地権にはどのような役割が期待されるのか、その期待に応えるためにはどのような課題があるのかについて考える定借シンポジウムが10月11日、都内で開かれることが決まった。

 税理士の本郷尚氏と弁護士の江口正夫氏による基調講演が行われるほか、不動産鑑定士の勝木雅治氏、実務家の大木祐悟氏と速水英雄氏を加えたパネルディスカッションも開かれる。シンポジウム終了後には登壇者らとの懇親会も予定されている。

 定期借地権については、創設当時に期間50年で分譲された戸建て住宅やマンションが約20年後に満期を迎えるため、原則通り更地返還されるのか、それとも地主が買い取るケースも出てくるのか注目が集まっている。

 一方、一昨年の9月には本郷税理士が「70年型の地代一括前払い方式によるマンションが都内の一等地で急増している」ことを公表し、定借が久しぶりに話題となった。

 また、昨年12月には定期借地権誕生以来、第一線で定借実務に関わってきた大木氏が近年は定借事業に関心を持つ人たち向けの手引書が見当たらないとして定借実務の基本と留意点についてまとめた『定期借地権の教科書』を出版した。

 すると、この7月には本郷氏が『ポイントがよくわかるマンガ都市型定期借地権(70年)のススメ』を出版。10月のシンポジウムを前に定期借地権が再び盛り上がる気運を見せている。

失ったものとは

 定期借地権誕生からの30年は日本経済の長期低迷を象徴する言葉〝失われた30年〟と見事に重なる。90年代初頭のバブル崩壊と共に日本は何を失い続けているのだろうか。 それはひとことで言えば、「改革の力」とそれを生み出す「未来志向」である。バブル崩壊を機に、日本経済は成長の原動力をそれまでの三種の神器「終身雇用・年功序列・企業別組合」から、経営者・従業員にかかわらず一人ひとりの発想力・創造力に切り替えるべきだったのに、そうした改革を怠ってきた。役所頼み、既得権益の死守、慣例主義、身内意識などが以前残ったままだ。

 過去の成功体験から脱却できない要因は、〝ジャパン・アズ・ナンバーワン〟と言われていたときには日本人に満ち溢れていた未来志向がなぜか急激にしぼんでしまったことである。おそらく、高齢社会が深まり、人々の間に将来不安が募るも、政治がそれを払しょくできないことで、ある種あきらめの境地が社会に充満していったことと無縁ではないだろう。

 定期借地権が誕生した当時、「人生は子や孫に資産を残すためにあるのではなく、自らの人生を豊かにするためにある」といった人生を謳歌する前向きのコメントが関係者の間で多く交わされていた。また、「無期限の所有権よりも、期限付きの定期借地権のほうが人生を戦略的に生きようとする人たちには向いている」といった声も聞かれた。要するに、30年前にはまだ日本人の中に人生をポジティブに生きるという思考があふれていたということだ。

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 定期借地権は言うまでもなく、50年後、70年後の未来に思いを馳せる契約であり、持続可能な街づくり、地域の再生を担う不動産会社が率先して推進すべき事業である。10月に開かれる定借シンポジウムが日本人の失われた未来志向を取り戻す契機となることを期待する。