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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇91 空き家をつくらない ヒラタが提案〝みんなのいえ〟 定借30年目の新活用

 ヒラタ(平田不動産=福井県小浜市、平田稔社長)は将来、空き家をつくらないための新手法として、定期借地権付き戸建て住宅〝みんなのいえ〟を提案している。

 個人の生涯所得に占める住宅取得費の負担を軽くするのが狙いだが、土地を買うのではなく借りることで土地に縛られない新発想のマイホームプランとなる。 

 具体的にはヒラタが小浜市の子育て世帯向けの一等地に所有する土地を定借で借り、期間は50年。そこに1500万円以内の戸建て住宅を建て、諸経費は350万円を見込む。住宅は数パターンから選ぶことができる。融資は「フラット35」を利用する。

 地代は50坪の土地で50年間の地代800万円のうち500万円を一括前払いとし残り300万円を毎月5000円(年6万円)ずつ払う。

投資をミックス

 同提案の注目すべき点は、マイホーム建設と同時にヒラタが運用する商品「ふるさと投資」(想定利回り3.8%、期間8年)に投資することで、地代と配当金をほぼ相殺できるようにすることだ。 別途自己資金が必要だが、150万円を投資することで、想定で年5万7000円の配当を得ることができる。

 30歳で始めると65歳でフラット35の返済が終わるので、その時点で定期借地権を解約すれば、前払いしていた地代の未消化分(15年分で150万円)が返却される。

 更地返還のため建物解体には約200万円が必要だが、建物の状態など条件次第ではヒラタが無償で譲り受けるので、その場合解体費は不要となる。もちろん、解約せずに残存期間中は建物の管理をヒラタにまかせて第三者に賃貸し、賃貸収入を得ることもできる。

 こうして、マイホームを「終の棲家」とせず、次の子育て世帯にバトンタッチしていくことで、空き家の発生を防止することができる。平田社長は言う。

 「これからは個人が自由に土地を所有して家を建てるのではなく、土地の所有はプロに任せプロのセンスでエリアづくりを行い、資産価値を上げていく。そうやって築き上げた良好な街の景観をみんなの共有資産としていく時代になる」

   ◇     ◇

 定期借地権は92年8月に誕生し、今年32年目を迎える。期間50年以上の一般定期借地権は主に居住用として創設され、08年ごろまでは年平均5000戸程度供給されていたが、その後急速に減少した。ただ、日本住宅総合センターの調査によれば21年度の分譲実績は戸建てが54件・89区画、マンションが16件・602戸、22年度は戸建てが80件・131区画、マンションが24件・1148戸とわずかながらも増加の兆しだ。

 定期借地権の創設当時は地価が高騰していたため、土地を所有するマイホームは庶民には高嶺の花だった。そこで所有権付きより2~3割安い定期借地権住宅に関心が集まったが、近年は少し意味合いが違ってきている。

 平田社長はこう語る。「住まいは土地(立地)が命であり、建物は流行りすたりがあり、有限でもある」と。だから一番大事な土地は無理して所有するよりも一等地を借りて住むほうが合理的だという。むしろ土地は所有するのではなく投資をして、その配当金を居住費に充当するという発想に切り替えるべきだと。

 定期借地権の創設当初はこうも言われていた。「土地を所有しないで浮かせた資金を建物に回せば、より快適な住まいを持つことができる」と。もちろん、そうした考え方は今でも通用するが、平田社長の言葉に、より強い説得力を感じる。住まいにとっては立地(環境)が命――。

 子育て世帯向きの一等地で子育てを終えた後は、夫婦二人で暮らすにふさわしい環境と住まいを手に入れる。ヒラタの今回の提案が人口減少や空き家の増加に苦しむ地域の不動産会社にとって持続可能な街づくりにつながっていくことを期待する。