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酒場遺産 ▶14 東京・横浜野毛 まち呑み 600件が軒連ねる大人の遊園地

 野毛の魅力を一言で伝えるのは難しい。横浜桜木町駅から国道16号線を渡ると面的に広がる「酒場の街」野毛。600ほどの飲食店があるという。戦後は闇市や屋台がひしめき、かつて美空ひばりがデビューした横浜国際劇場もあったという。名の知れた武蔵屋と栄屋酒場は、創業70年を超える野毛を代表する老舗酒場だったが、それぞれ2015年、18年に廃業。日ノ出町に近い栄屋酒場は魚が抜群に美味く、よく通ったものだ。今も魅力的な酒場は多い。それら個店の紹介はいずれとして、今回は街呑み(街の歩き吞み)の勧めである。筆者は月一回行くほどの野毛ラバーだが常に歩き吞みだ。友人・知人たちとあるいは一人で、一軒1~2杯の立飲みを中心に4~5軒サクッと行く。店の客と話し、時に意気投合して次の店へご一緒する。これが楽しい。

 桜木町駅から国道を渡る地下道へ潜り、ぴおシティ地下の立呑み「太陽ホエール」でもつ焼きと麦酒で喉を潤す。このビル地下街は目を疑うほどの一大酒場街だ。地上に上がり、焼き鳥の煙が立ち込める野毛小路を歩き、七輪酒場「大夢」で路上呑み。店の外壁には小さなカウンターがあり、みな思い思いに盛り上がる。「Barホテルの前」という変わった名前のバーでは博学の常連客らしい男から横浜史の「講義」を受けた。圧巻なのは大岡川に円弧状に張り出す「奇観」都橋飲食街だ。行きつけのスペインワインバー「Vale」がある。川面に反射するネオンが美しい。最後は「バーキネマ」。60~70年代にタイムスリップしたような店舗空間とBGM、一見の価値あり。嗅覚が頼りの出会いに満ちた街呑みツアー。大人の遊園地、野毛へようこそ。(似内志朗)