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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇88 第34回「不動産女性塾」セミナー 初の双方向形式で 会員レベルの高さを証明

 「仕事は世のため、人のため」――だからこそ利はあとから付いてくる。この大原則を忘れたら更なる少子高齢化と人口減少が続く我が国ではどんなビジネスも成り立たない。第34回不動産女性塾セミナー(5月30日、明治記念館)は、そのことをあらためて認識する機会となった。

 いつもは外部から招く講師の代わりに今回は女性塾の理事6名が「私の仕事の流儀」と題してリレー講演(一人・9分間)を行った。そこに共通していたのは〝地域に暮らす人々の役に立ってこそ不動産業〟という思想と、仕事とは世のため人のために役立っている自分を自覚し、そういう自分を誇りに思うためのものでもあるという認識だ。

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 6人の女性経営者らによる講演の中から、ひときわ輝いたキーワードを紹介しよう。

 「仕事は細かくて面倒なのが当たり前」(北澤艶子塾長、北澤商事会長)/「家は子供を幸せにする」(武藤正子すまいる情報光が丘社長)/士業の先生方にはできないことをする」(曽根惠子夢相続社長)/「会長になって現場に戻れた。そこに誇り高い自分がいた」(野老真理子大里綜合管理会長)/「仕事は成功することだけではない。全力で努力するところに意味がある」(上田照子花沢ホールディングス執行役員)/「経営者たる者、ファーストペンギンになれ」(東福信子東悠エステート社長)。

 講演が終わると、全国から集まった会員75名が8つのグループに分かれて聴講後の感想を話し合い、その結果を代表者が発表した。わずか30分足らずの時間だったが、どのグループも的を射た発表内容で女性塾会員らのレベルの高さをうかがわせた。今回の講師と参加者らとによる双方向型セミナーは同女性塾セミナーとしては初の試み。女性塾顧問で元住友住宅販売(現三井住友トラスト不動産)の社長・会長を務めた近藤紀一氏による提案が大成功を納めた。まさに、「女性塾」自身がリスクを恐れず新たな手法に踏み切る〝ファーストペンギン〟となった。

人間と仕事

 それにしても、仕事とは人間にとってなんと奥深いものだろうかというのが、この日筆者が抱いた感想だ。その人間にとって大事な仕事が今やチャットGPTの登場など本格的にAIやロボットに取って替わられようとしている。

 NHKではアナウンサーに代わってAI音声がニュースを伝え、オフィスビルでは清掃ロボットが動き回り、ホテルのフロントやコンビニのレジでも無人化が進む。いずれ公共交通機関の運転手はもちろん、戦場に赴く兵士までAIロボットに変わっていくだろう。最近TVで急増している〝食レポ〟番組を見ていると、人間に残される最後の仕事は「食べる」ことだけになるのではないかと思われる。

 そう考えると、各グループからの感想にもあったが、北澤塾長の「仕事は面倒で手間のかかるのが当たり前」という言葉が意味深い。快適や利便性ばかり追求する社会の風潮は人間を劣化させていく。 筆者が丸テーブルで同席した大前久明子氏(住宅ファミリー社会長)は「近年は物を片付けられない人たちが増えていて、空き家の処分が進まない一因になっている」と話す。不要な物に囲まれていても不快と感じないのは人間の感性の劣化だろう。

 感性が劣化すれば、人の人たるゆえんである人への関心が薄れるから、あらゆる職場で進む無人化現象にも鈍感となる。いやまさに今は、「仕事とは何か」を考えることが「人間とは何か」を考えることに直結する時代である。

 この日の女性塾には遠く沖縄から5名も参加していたが、沖縄県は女性経営者の比率が全国で最も高いことで知られている(22年は11.6%)。飲食業や観光業など女性が起業しやすいサービス業中心の産業構造が要因だ。ならば、男性よりも本来は女性に向いているともいわれる不動産業が、職業別では女性経営者の比率が最も多くなる日も近いのではないだろうか。