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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇87 会員増え続ける日管協 その理由示唆した講演会 東京都支部総会で参加者共鳴

 日本賃貸住宅管理協会(日管協)の会員が増え続けている。20年9月1660社、21年6月1801社、22年6月2124社、23年3月2303社とこの2年半で643社、年平均250社ペースで増加している。なぜこれほど勢いがあるのだろうか。このほど、その理由を示唆する講演会が開かれた。

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 日管協東京都支部が5月22日に開いた会員総会での記念講演だ。ちなみに、同支部の会員数は23年3月末時点で796社。毎年80社ペースで増えているという。講演したのはアートアベニュー、プロパティマネジメント事業部長の片平智也氏と平田不動産社長の平田稔氏の二人。

 両者の話に共通していたのは、これまで地味と思われていた賃貸管理という仕事が、これからは地域の街づくりの推進者になるという認識だ。片平氏はそれを管理会社社員のオーナーへの「提案力」という視点から語り、平田氏は「地域はみんなのもの」という切り口から自社の戦略と共に解説した。

 片平氏は空室対策にしろ、収益向上策にしろ、結局は管理会社のスタッフに知識がなければオーナーに提案することができないことに気付き、同社では「オーナー提案スキル」を40項目に整理、それを社員が6日間で学べる講座を創設したという。40項目はPM、ファイナンス、売買、不動産税務、土地活用などに分類され、実務編もありかなりハードな内容だ。

 しかし、知識を身に着け、自信をもってオーナーと接することができれば、「日常化していたオーナーからの苦情が、いつのまにか自分への感謝の言葉に変わり、仕事が楽しくなってくる」と片平氏は語る。具体的な成果も出ている。スタッフの提案による事業で、なんと1年間で粗利が1億円も創出されたという(21年実績)。

 注目すべきはその中に売買仲介手数料の3094万円が計上されていたことだ。賃貸管理部のスタッフがオーナーに管理物件の売却を提案した結果だ。空室対策や収益力アップなど物件の改善に関することだけでなく、場合によっては売却や資産の組み換えも提案できることがスタッフの自信と誇りにつながり、それが地域の「いい街並み」形成にもつながっていく。

 この「専門職でありながら、そこだけにとらわれない総合力」に平田氏も注目する。日本精神の師と崇められる思想家・安岡正篤氏(1898ー1983)の言葉「専門的愚昧と日本の現状」になぞり、「不動産業者だから不動産のことだけ分かっていればいいというのではなく、不動産を通して広く社会の課題を解決する眼を持つことが大事」と指摘した。

街づくりの立役者

 平田氏は、安岡氏の「分化・分業制度の発達で専門が細分化していけば、やがて人間が部分化・抹消化して偏屈になる弊害(専門的愚昧)が出てくる」という言葉に自身への警鐘も含め、業界全体の現状に懸念を示す。おそらく平田氏がこの日の講演で最も語りたかったことは、もともと「地域はみんなのもの」という思想だろう。民法(206条)では所有権を「所有者は法令の範囲内で所有物を自由に使用し、収益し、又は処分することができる」と定義しているが、これも人間が作った枠組みの一つに過ぎない。法律以上に大事なことはこの世の万物を支配する自然の摂理ではないか。「地域をその景観も含めてみんなの共有物とすることで、持続可能な街づくりにつなげていきたい」(平田氏)ということだと思う。

 「その街づくりのためなら、これまで仲介、賃貸、管理という流れでやってきた当社だが、今後は空き家などを所有するという役割も担って、街づくりの〝立役者〟になりたい。素人に所有させることはアンハッピーな結果を招きかねないからだ」という。

 講演は350名の参加者に感動を与えた。その要因は、登壇した二人に、もう一つの共通点があったからだと思う。それは、建て前ではなく管理という仕事への〝夢〟を本気で語っていたことだ。