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酒場遺産 ▶10 東京・吉祥寺 いせや  継承される老舗のオーラ

 酒場好きにはよく知られた吉祥寺「いせや」。1928年精肉店からはじまったという総本店へは、長く中央線沿いに住んでいたので度々寄ったものだ。その頃は木造2階建ての仕舞屋で、2階の床が少し傾いていたことを覚えている。吉祥寺駅南口から井之頭通りを西に数分歩き、吉祥寺通りを左に曲がるとすぐに、店頭で焼くやきとりの濛々とした煙が道路に流れる「いせや」が見える。風向きによっては煙が店内に流れ込み、店内は霧の中のような状態になる(燻製状態になるのでキレイな服は着ていかない方が良い)。名物の巨大な串は、レバー、タン、ハツ、シロ、カシラ、ガツ、つくね、軟骨など。以前は1串90円だったが、近年の物価高でささやかに10円値上げし100円となった。そして外せないのが、自家製シューマイ360円、煮込み360円、ガツ刺し300円、焼きトウモロコシ300円などで、ガッツリ食べて飲みたい人には最高だ。サッポロラガー赤星大瓶600円、日本酒は大関小徳利300円、焼酎250円など手頃だ。特筆すべきは満席でも注文が通りやすく、店頭と奥の厨房で料理を客の入りに合わせ、注文前に作っているので酒や食事(串を除いて)が1分以内に運ばれる。

 この総本店の他に、駅南口から井の頭公園へ下る歩道沿いに1960年開業の公園店がある。以前はどちらも崩れそうな店舗だったが、本店は2008年、公園店は13年に新店舗に建て替えられた。建て替えを機にかつての魅力を失ってしまう酒場は多いが、どちらの店も以前の食と酒を保ち、場のオーラを見事に継承している。そして、それぞれの土地の特性を生かし魅力を増している。さすがだ。(似内志朗)