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社説 不動産業ができる少子化対策 〝場づくり〟の最優先コンセプトに

 温暖化と少子化問題は根本的解決策が見いだせずにいる。不動産業界はどう貢献すべきだろうか。脱炭素化に向けては住宅の省エネ化、断熱化という有効な道筋は見えている。しかし少子化対策に対してはどうか。

 少子化問題の難しさはその背景に女性の社会進出と結婚に対する意識の変容という先進国共通の課題があることだ。スウェーデンとフランスは徹底した出産・育児支援策が功を奏し、少子化に一定の歯止めがかかったことで有名。しかし、それでも合計特殊出生率は前者が1.7、後者も1.9と2を割っている。ちなみにアメリカは1.7、イギリス1.6、カナダとドイツが1.5、日本は1.4。韓国に至っては0.9と深刻さを増している。

 このように、少子化は社会が豊かになれば宿命的に生じる社会文明論的課題でもある。日本政府が最近掲げた出産・育児に対する〝異次元〟の経済支援がどこまで効果を発揮するのか注目である。

 少子化対策には、(1)若者世帯の所得向上(2)夫婦の労働・子育て環境の改善(3)同棲婚や婚外子などに対する社会的許容という3つを同時に実現することが肝要だ。このうち不動産業が貢献できそうなのが(2)の労働・子育て環境の改善。この分野では、夫婦の育児休暇取得とその間の給与保証、復帰後の待遇などが課題となってきたが、不動産業には子育て世帯が働きやすい〝場〟の提供というシンプルかつ重要な使命が見えてくる。

 再開発やオフィスビルの建て替え、街づくりなどその本業において、今後は少子化対策を最重要コンセプトにおくという発想である。働き方改革がその追い風となる。働き方改革の要は「働く場」の多様化だ。コミュニケーションのための本社オフィス、集中のためのサテライトオフィス、ワークライフバランスのための在宅勤務などだが、今後はこうした「働く場」と社会にとって欠かせない「子育ての場」を一体的に合理的に整備していくことで、これからの若い世代が子育てしやすい環境を創造していくことができる。

 また、夫婦共稼ぎが主流になったとはいえ、やはり家事・育児の負担が多くなりがちな女性の労働環境を重点的に改善していくという視点も重要だ。そこで注目すべきなのが不動産業の〝地域密着性〟だ。特に不動産流通と賃貸管理業はその特性が強い。地域密着型であれば、住まいがある地域での〝職住一体化〟が実現できる。つまり、結婚後も育児をしながら働き、地域に人脈を広げていけば会社にとっても有力な人材となる。

 企業側もそうした観点で女性が長く働きやすい職場環境を整備していけば、流通・賃貸管理業界全体として日本の少子化問題に大きく貢献していくことができる。日管協が昨年スタートさせた「人財ネットワーク制度」はこうした発想を具現化したものであり、今後の運用に期待がかかる。