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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇81 待ったなしの少子化対策 不動産業だからできること 女性の労働環境を改善

 少子化対策には現行の「働き方改革」の推進と、わけても女性の労働環境を抜本的に改善する社会変革が不可欠となる。不動産業はその双方で貢献できる産業だ。

 一方、少子化は経済の発展と女性の社会進出がもたらす先進国共通の課題とも言われている。いわば社会文明論的課題だが、いまや待ったなし。国の衰亡につながりかねない最重要課題に不動産業が果たすべき責務は大きい。

試される経済支援

 スウェーデンとフランスは徹底した出産・育児支援政策が成功し、少子化対策に一定の歯止めがかかったことで有名だ。しかし、それでも合計特殊出生率は前者が1.7、後者も1.9と2を下回る。 出生率低下は経済が成長し、女性の社会進出が進む先進国共通の課題でもある。ちなみに主要先進国の出生率はアメリカ1.7、カナダ1.5、イギリス1.6、ドイツ1.5、日本1.4である。中国も90年代後半からは1.7の水準で横ばい。韓国に至っては0.9と深刻さを増している。今や中国を抜いて人口最大のインドでも2.0と人口置換水準の2.1を切っている(都市部1.6)。

 このように、少子化は社会が豊かになれば宿命的に生じる問題で、女性の結婚に対する考え方なども影響する社会文明論的課題だ。

 ゆえに、出産・育児に対する経済的支援が先進国でどこまで効果を発揮するのか試されている段階ともいえる。

 少子化対策は第1に若者世帯の所得水準、第2に夫婦の労働・子育て環境、第3には同棲婚や婚外子などに対する社会的許容がポイントといわれる。

 このうち不動産業が貢献できるのが2の労働・子育て環境の改善である。この分野は、これまでは夫婦の育児休暇取得やその間の給与保証という社会システム的アプローチが中心だったが、不動産業に期待されるのは働きながら子育てしやすい具体的な〝場〟の提供である。

 つまり、不動産業が担う再開発事業やオフィスビルの建て替え、街づくりなどにおいて今後は〝少子化対策〟を最重要コンセプトにおくという発想が求められている。

 現在進行中の「働き方改革」がそのための追い風となる。というのも働き方改革のひとつが「働く場の多様化」である。コミュニケーションのための本社オフィス、集中のためのサテライトオフィス、ワークライフバランスのための在宅勤務などだが、これらを機能的に合理的に一体的に整備していく役割こそがこれからの不動産業の責務となる。子育て中の若い夫婦が働きながら子育てしやすい環境づくりを担えるのは不動産業である。

地域密着の魅力

 夫婦共稼ぎが今や主流だが、家事・育児においてはやはり女性がより多くを負担しているのが実態だ。そこで母親となった女性の労働環境をいかに子育てしやすいものにするかが少子化対策の要となる。その点、不動産業は地域密着という大きな特性を持っている。中でも不動産流通と賃貸管理業はその典型だ。 

 地域に密着しているということは、従業員が〝職住近接〟を実現しやすい職業ということである。地元の不動産会社で長く働きながら、知識や経験を積むほど有力な人材となりうるし、住まいと職場が近ければ当然子育てしやすい環境にもなる。特に、今後有望視されている賃貸管理部門では地主や家主との信頼関係が重要となるため、企業としても長く勤めている社員ほど重要な戦力となる。

 そのように不動産業界が女性にとって魅力的な職場であるという社会的認知が広まれば、若い女性の参入が増え、不動産業界のイメージが刷新され、不動産流通・賃貸管理業界全体として、日本の少子化対策に貢献していくことにもつながっていく。

 ちなみに、日本賃貸住宅管理協会が昨年スタートさせた「人財ネットワーク制度」は結婚や配偶者の転勤などで退職をやむなくする場合でも、女性が転居先での就職をしやすくする制度として今、大いに注目を集めている。