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酒場遺産 ▶7 東京・湯島 岩手屋 愛すべき古き良き酒場

 湯島は、周囲を北側から時計回りに本郷・上野・御徒町・秋葉原・御茶ノ水などに囲まれた台地の住宅地が主だが、建物3、4階分も高低差のある坂を東に下ると、湯島三丁目の一部が上野・御徒町へと続く飲食店がひしめく低地の繁華街となっている。「岩手屋」はこの一角にある。賑わう春日通りから路地を入ると「奥様公認酒蔵 岩手屋」の看板が目立つ。昭和24年創業の老舗酒場だ。創業者が岩手県盛岡出身のため「岩手屋」、そして「奥様公認酒蔵」の由来はすこし複雑だ。かつて大学の先生らがこの店に学生達を連れて飲み、やがて学生たちの多くは結婚をした後もこの店の常連となった。携帯電話も無い時代、いつでも奥様方から連絡がつきやすいという理由から「奥様公認」と呼ばれるようになったらしい。

 ともかくもこの店の料理と酒がいい。看板の「酔仙樽酒」、岩手最古という菊の司酒造「岩手山」、「菊の司」も美味い。燗酒は店の名や酒蔵名が太字で書かれた徳利でドンと出される。鱶の煮こごり、鰊粕漬焼き、合鴨のつくね焼、焼き椎茸のおろし、烏賊の三升漬け、ハモニカ焼き(カジキの背びれ肉)など何を頼んでも美味い、500~1000円ほどだ。気仙沼直送の鯖・鰺・平目刺し3点盛りも美味かった。

 右手に分厚い白木のカウンター席、左側はテーブル席、居心地の良い空間だ。実はこの界隈に「岩手屋」は二軒ある。ひとつはこの「本店」で(普段はこちらに来ることが多い)、ここから1分ほど、路地を左手に曲がったところに「支店」があるが、こちらも本店に劣らず素晴らしい酒場だ。愛すべき古き良き酒場、暖簾をくぐるとホッとした気持ちになる。(似内志朗)