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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇80 「てまひま不動産」 〝住文化〟生む経営思想 手を掛けてこその住まい

 中古マンション・戸建の購入からリノベーションまでがワンストップで完結する、ありそうであまりなかった専門店。それが、リブランが7年前に始めた「てまひま不動産」。資金計画に始まり、リノベーションを想定しての物件探しから、リノベーションの詳細な設計・施工まで、すべてひとつの窓口(東京・西荻窪店)で相談できる。

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 リノベーションを想定しての物件探しにはリブランの建築士が同行することもめずらしくない。「この物件をこういうように改造すれば、依頼者が希望する住まいが実現できる」という判断は素人ではなかなか難しいからだ。事実、部分的ではなくスケルトン状態にまで戻すケースが多いという。

 「シングル女性など、住まいづくりにかなりのこだわりをもったお客さんが中心」と話すのは同社宣伝部・住宅事業部長の菅原浩一氏。夢だった大きなクローゼット、アイランドキッチン、広いリビングルームなどが小ぶりの中古マンションでも実現できるのがフルリノベーションの魅力だ。当然、新築のマンションを購入するよりも費用は安いし、住みたい場所でとなれば「中古+リノベーション」方式のほうが選択肢は広がる。

 「最近は住まい探しにあまり時間を掛けたくないという若い人たちが増えているという声も聞くが、「当事業の場合はなるべく自分の趣味・趣向にこだわりたいという依頼が半分以上を占める」と菅原氏は言う。プロジェクターで映画を楽しみたいので防音室にしてほしい、壁一面に漫画本を並べる棚を設けたいなど要望は多種多様だ。防音室化はミュージションシリーズを展開している同社にとっては得意分野となる。

 「てまひま不動産」は現在、リブランの一事業部門で会社組織になっているわけではない。ただ、不動産業界全体のことを考えれば、今後はこのような不動産会社こそ増えるべきである。というのも、どういう手法で住まいを求めるにしても、「まず、どこ(どの街)に住みたいか」が最初の選択肢となるはずだ。

手段の選択

 ということは、まず相談に行くのは当然、そのエリアにある不動産会社になる。ところが残念なことに地元不動産会社の多くは、相談者が希望の住まいを実現するための手段については、限られた選択肢しか用意していない。一般の仲介物件か、事業者が買い取って普通にリフォームしただけの再販物件ぐらいしかないのが実態だろう。

 しかし、ユーザーの中には新築の注文住宅は無理でも、中古物件を買って自分好みに改造したいという人もいれば、時間的余裕がないのでフルリノベーションされた物件の中から自分の好みにマッチしたデザイン住宅を買いたいという人もいる。「てまひま」ではそういう顧客が中心だが、普通の仲介物件も扱ってはいる。それは予算の都合で今すぐリノベーション費用まで手が回らないケースもあるからだ。

 同事業がスタンダード化しているリノベーションは、杉材(埼玉県飯能の西川材)を使った無垢の床、マンションでも玄関側からバルコニー側に風が通り抜けるように工夫した独特の窓設計、二重サッシによる断熱化などである。 これらの工事にはそれなりの費用がかかるため、その費用も一緒に借りられる住宅ローンを提供している。別々に借りた場合と比較すると総額5000万円のケースでは月々の支払額が約4万2000円も安くなるという。

名は体を表す

 7年前、新規事業に「てまひま不動産」という名称を付けたリブランの心意気がいい。利益を上げることだけを考えたら〝てまひま〟を少なくするのが当然だが、逆にそこに事業の命を吹き込むという発想は同社ならではだ。

 そういえば、同社創業者の鈴木静雄氏が昨年上梓して話題になった『狂愚三昧の経営』という本の表紙にはこんな言葉が記されている。

 「営業するから売れない。宣伝するから本質を見失う。経営するから倒産する」