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酒場遺産 ▶6 東京・渋谷のんべい横丁 会津 カップ酒「栄川」と突出し2皿

 若者のまちと言われる渋谷だが、駅近くに時代に取り残されたような一角「のんべい横丁」がある。最近、再開発により駅周辺は大きく変貌しつつあるが、この一角だけは昭和のままだ。先日、古い友人とのんべい横丁「会津」を訪れた。会津の銘酒「栄川」カップ酒が並ぶ。美味い酒だ。みな3、4本空けている。「料理はないよ」と突出し2皿はつまみ程度。横丁の店は4畳程度の正方形の平面の2辺にカウンター席のみで通常4人、最大6人のミニマムスペースだ。満席時には客が外に出られないため扉が3つある。

 「会津」は故人となった会津出身の大ママが始めた店で、壁には無数の客のスナップ写真と共に、大女将が若かった頃のモノクロの写真がかけてある(美人だ)。この店を愛する常連たちは、大ママを囲み屋形船で宴席を開くこともあったという。一方、初めての客もウェルカムな大人の店だ。常連客の長老格であるTさんは85歳、仕事の後、ほぼ毎日この店に来て栄川を3合飲んでいくという。パリッとしたスーツ姿は俳優のようで、とてもその年齢には見えない。個性的な常連たちも皆、この店を心から愛しているようだった。Tさんによれば1950年に都が用意した土地に渋谷界隈の屋台を集め横丁になったという。 その後、横丁組合が土地を都から買い受けたため、周辺で再開発が進んでもここだけは開発が進まず、昔の姿を残している。まったく幸運なことだ。「会津」の他にも存在感のある店が並ぶ。どの店も狭く、座る席を探すのが難しいほどだ。この横丁で「高級店」と言われる創業90年「鳥福」にも何度か訪れたことがある。素材のよさ、調理の丁寧さ、さすがに絶品だった。  (似内志朗)