総合 売買仲介

~畑中学 取引実践ポイント~ 不動産ビジネス塾 売買仲介 初級編(19) 買主に興味を持たれる3点セット すべての懸念を払拭「不動産の案内方法」

 不動産の案内は目的と過程が明確だ。「購入申込書(売買交渉)を得る」を目的に、「買主に興味を持たれる」過程となる。具体的には買主に「購入したほうが利益は大きい」もしくは「不動産を利用する自分が理想の姿だ」と、興味を持たせる過程をつくることだ。そのためには買主の購入意向をかなえる不動産だと説明(翻訳)し、買主に「これだ!」とイメージしてもらうことになる。

 イメージさせる理由は、不動産の案内では買主がどう感じたかが重要になるからだ。不動産取引では売主の「売る」「売らない」は「価格がいくらか」と価格が決定の大部分を占めているので私たちからも分かりやすい。一方で買主の「買う」「買わない」は価格以外にも物件、エリア、状況など複数の検討要素があり、それらを総合的に考え決断するので私たちからは分かりにくい。しかも、それらは事実ではなく、感じ方で決まる。そのため、興味を持ってもらえるイメージ喚起が必要になる。

 不動産案内では「言わなくても分かるでしょう」「後で説明すれば十分でしょう」は通用しない。買主が不動産のその場でイメージ喚起ができなければ、あとはなかったことになるので注意が必要だ。

 具体的に不動産の案内ではこうする。

 現地で買主の意向をベースに(1)土地建物をすべて見せ、(2)イメージ喚起できるように説明し、(3)懸念点があれば実演を踏まえてその場で払拭させる、この3点を行う。(1)土地建物はすべて見せておきたい。割安やエリア限定など特別な理由がない限り、買主の気持ちとしてはすべて見ていないのに「買う」と決断するには抵抗があるからだ。(2)先にも書いた通りイメージ喚起が重要だ。例えば買主がリビングでのくつろぎを重視するなら、現地でリビングを見せつつ、広さの説明よりも、買主がどのようにくつろげるかの話をしたほうがいい。(3)懸念点はできるだけ現地で払拭しておく。払拭できなければ宿題として持ち帰り、早々に回答したい。マンションで隣戸や上下階の音を懸念するなら、生活時間に来てもらい実際に聞いてもらう、もしくは音量を測るなどで「どうですか」と聞くことだ。

 懸念点を放置しておくと「買いません」となりやすい。芽のうちにつぶしておこう。

 この3点の結果、興味ありになれば案内は成功だ。後は購入申込書の取り付けに向けて、諸条件を詰めていけばよい。一方で案内現場で興味を持たれなければ購入にはなり難い。その場合は他の物件を紹介したほうがいいだろう。

 また案内は「顧客に自分を売り込むアピールの機会」でもある。たとえその案内の結果が不調でも、「次もお願いします」となるように顧客にとって自分の存在が有益であるように見せておきたい。

【プロフィール】

 はたなか・おさむ=不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株) 代表取締役。

 2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。