政策

社説 蔓延する将来不安 不特法で地域貢献を

 少子化が止まらない最大の要因は若い世代の将来に対する経済的不安が強いからである。ある生命保険会社の調査によれば若者の75%が老後の生活資金に不安を抱いている。企業がSDGsや脱炭素化で社会貢献するのは今や常識で、より重要な視点は企業がその本業によって直接社会に貢献する事業を創造することではないか。 

 老後の経済的不安を解消するためには従来の貯蓄だけでは不十分である。なんらかの〝投資口〟をもたなければならない。政府も盛んに金融商品での投資を推奨するが、貯蓄に慣れ親しんできた日本人の反応は鈍い。ある調査によれば日本人の株式保有率は1割強で、不動産投資を行っている人の割合はわずか3%弱だ。不動産投資は株式以上に特殊な人たちがやっているというイメージが強い。不動産投資には株式以上に高額資金を必要とするからである。

 ただ、その常識は不動産特定共同事業法が17年に改正され、「小規模不動産特定共同事業」が創設されたことで大きく変わった。これは投資家一人当たりの出資額が100万円以下で、投資家から集める出資の合計額が1億円以下であれば、事業者に対する資本金などの規制が大幅に緩和され、しかも投資家からインターネットで小口の出資申し込みを受けるクラウドファンディングも解禁された。

 この小規模不特法を活用し、大きな資本を持たない不動産会社でも空き家などの再生に地域住民を投資家として取り込む事業が増えつつある。例えば神奈川県の葉山町では使われていなかった古い蔵が改造され、一棟貸しのホテルとして開業されている。また福井県小浜市の不動産会社は地元住民から小口資金を集めて地域を活性化していく事業を計画している。  人口3万人に満たない小さな市だからこそ、地元の不動産会社と地域住民は運命共同体という発想だ。地元のショッピングセンターや観光客向けのホテル、多世代共生型のシェアハウスなどアイデアは尽きない。日々その運用状況が見える地元の不動産への小口投資なら投資に慣れていない人たちでも安心ではないか。今は小浜を離れている人が〝ふるさと投資〟をしてくる可能性もある。

 地域が活性化し、将来の発展性につなげることができれば若者を地元にとどめる力になるかもしれない。地元自治体と連携し新たな定住人口流入につなげることも夢ではないだろう。要は地域を発展させることで住民の将来不安解消に地元不動産会社が貢献していくところに大きな意義がある。それは、地元から逃れることができない地域の不動産会社にとっても最もやりがいのある事業ではないだろうか。ちなみに、小規模不動産特定共同事業者の数は22年11月末時点で52社、うちクラウドファンディングの許可を得ているのは17社と少ない。競争相手が少ない今だからこそ大きなビジネスチャンスとなる。