政策

社説 もうひとつの「3つの老い」 賃貸住宅も計画修繕促進を

 23年度の税制改正大綱がまとまった。国土交通省が要望していた各種税制の延長、拡充は概ね受け入れられて決着した。その中で注目されるのは新たに創設されることになった、高経年マンションの管理適正化や長寿命化を目的とし、区分所有者の固定資産税を減額する「長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する特例措置」だ。築20年以上、10戸以上で、管理計画認定を受けており、その他一定の要件を満たすマンションについて、必要な修繕積立金が確保され、長寿命化に寄与する大規模修繕工事が実施された場合、建物部分について工事完了翌年度分の固定資産税額の減額を講じるもので、不動産協会や不動産流通経営協会、全国住宅産業協会が要望していた。

 建物の老朽化、管理組合員の高齢化、管理員の高齢化という「3つの老い」を抱えている区分所有マンションの適正な維持・管理と共に長寿命化を促す新税制として大いに評価したい。ただもう一つの「3つの老い」も喫緊の課題だ。同じ集合住宅の賃貸住宅も建物の老朽化、高齢入居者の増加、家主の高齢化に直面しており、今後さらに増大が見込まれている。区分マンションと賃貸住宅の大きな相違は所有権の違いだが、入居している生活者目線で維持・管理をとらえるならば、あえて区分所有とオーナー所有を線引きする必要性はない。

 現在、区分マンションの入居世帯は、10世帯に1世帯の割合なのに対して賃貸住宅入居世帯は10世帯に3世帯と高い。加えて区分マンションの賃貸化も増加基調で全国平均11%が区分マンションの賃貸住宅という調査結果もある。区分マンションでは委託管理や自主管理が一定程度普及しているが、特に個人家主をはじめとする賃貸住宅は賃貸住宅管理業法が昨年創設されたばかりで、未整備な部分が多い。何よりも、維持管理経費が収益を圧迫するという家主のコスト意識が強いことが大きなハードルとなっている。近年でこそ管理費を負担する家主が増える傾向にあるとはいうものの、長年、計画的な大規模修繕が根付いてこなかった大きな要因となってきた。そうした中でも、昨年末には部位を限定する形で大規模修繕積立金を経費化する共済制度が業界主導で始まっている。賃貸住宅家主にとって大きなインセンティブとなっていくことは明らかだ。

 賃貸住宅の管理不全、老朽化による死傷事故は後を絶たない。「3つの老い」の進行と共に死傷事故がさらに増えていくことが懸念されるうえ、入居者以外にも被害が広がる可能性も否定できない。区分マンションと等しく賃貸住宅も集合住宅として社会財であることに変わりはない。入居者により安全・安心な暮らしを提供できるように、賃貸住宅の計画的な大規模修繕工事に対しても税制優遇などの政策誘導を広げるべきだ。