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創刊75年企画~残せる器~ スペースリー ひろしまサンドボックス採択 VR化で内見をリアル体感 公民連携で空き家をVR化

 空き家の物件情報をVR(仮想現実)技術で分かりやすく伝える――。360度VRと空間データ活用プラットフォーム「スペースリー」を提供するスペースリー(東京都渋谷区)は、広島県全域での「空き家バンク」の〝VR化〟を目指す空き家対策の取り組みを始めている。空き家バンクの登録率を高め、行政職員の問い合わせの対応時間を削減。利活用に向けた空き家の物件取引の成約率が向上する効果を得ているようだ。

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 同社提供のVRクラウドソフト「スペースリー」は、市販の360度カメラを用いて撮影したパノラマ写真や動画をアップロードすれば、誰でも簡単に、「VRコンテンツ」として制作や編集、管理までもできる。VRは場所や時間を選ばず現地を訪問しなくても、気軽に自宅などで内見できる〝体験〟を得られる。まずは物件を知りたい、そうした場面で効果的なツールのようだ(イメージVR写真(上))。

 「VR技術は、不動産仲介会社では不動産ポータルサイトの情報掲載や、空間データとして販売促進、マーケティング資料で、不動産開発会社では完成前物件の分譲販売の訴求方法で使いやすい。自治体では空き家バンクの掲載情報をより精緻に提供できる」(同社広報の養安あゆみ氏)。

 それらの特徴や使いやすさを強みとして、同社ソフトは7月に広島県(湯崎英彦知事)が推進する最新デジタル技術を活用する実装支援事業「ひろしまサンドボックス」で採択された。広島県住宅課と各市町村が運営する「空き家バンク」の物件掲載情報で順次に実装していく。VRで分かりやすく表現された空き家の物件情報により、簡便に内見できる環境を整える。

成約数などが増加

 同県での事業採択は、同ソフトを各自治体が導入し、その効果を評価されてきた点が大きい。実際、同県江田島市(明岳周作市長)では、同ソフト導入後の「空き家バンク」の問い合わせ数が前年比で2倍に広がった。物件登録数も通常月比で3.9倍となり、成約数でも前年比で2.4倍に高まった実績を持つ。

 同様に、これまで同県廿日市(はつかいち)市(松本太郎市長)では、県内間での移住が多かった。ただ、それが同ソフト導入後は「空き家バンク」の認知度が高まり、県外からの内見希望者も増えているという。例えば、パノラマ画像から生成して3Dリノベーション化した廿日市市のお試し空き家物件のドールハウスの画像(QRコード)は内見での体験を、より〝リアル〟に効果的にしている。

 従前の「空き家バンク」のの情報提供では、外観や内観の写真、間取り図のみで、物件が本来持っている魅力や利活用の〝可能性〟を伝えづらかった。VR化することで、利用者は二次元の画像よりも物件のことがより詳細に、分かりやすくなる。コンセントの位置などを細かく確認しながら、補修すべき箇所などが事前に分かるようになる。

 この特徴は、無料動画配信サービス(YouTubeなど)では実現が難しい。空間データを活用すれば、情報量が圧倒的に高まる。事前にVRで絞り込めば、実際の内見時に効率よく臨め、契約後のミスマッチを防ぐ。空き家の利活用希望者からの問い合わせの内容が的確で具体的になり、行政職員側の回答の手間が低減される。「自分が見たい箇所をパソコンで自在に操作し、新たな暮らしに〝ワクワク〟しながら気持ちが高まる。地域に身近な存在の自治体も、空き家に対して抱えている課題感を解消できるとして〝ぜひ活用したい〟との声が増えている」(同社西日本営業部長の藤原基己氏)。 

まちの魅力伝える

 更にVR画像は〝まちのプロモーション用〟としても活用できる。テレビや映画のロケ場所、団体旅行プランなどの候補地としてVRで訴求する。住まいの周辺環境や、学校、病院、公園、商業施設、生活利便施設などと合わせて紹介できるだけでなく、「実際の暮らしをイメージし、まちの魅力を〝体感〟してもらえるのではないか。活用の促進によって、空き家対策と合わせた地方創生やまちづくりの活性化にもつなげ、支援していきたい」(同社の藤原氏)と展望している。