政策

社説 無難な印象の予算・税制改正要望 ポストコロナ、難局打開の気概を

 各省庁が財務省に提出する23年度の予算概算要求と税制改正要望が8月末に締め切られた。ここからのスケジュールは、予算については、各省庁と財務省が折衝を繰り返し政府案が練られていく。税制改正については、年末の与党税制改正大綱のとりまとめに向け、政治による議論が本格化する。国土交通省に関しては、一言で言えば無難な内容だ。

 予算に関しては、災害対策などの国土強じん化、GX(グリーン)・DX対応、地方創生の3つを柱としている。これら3つを実現するための個別の施策は、新たな制度を創設するというよりは、これまでの施策を継続・拡充するというものだ。住宅・不動産分野で1000億円を超える要求額となったのは2つある。1つは住宅・建築物の省エネ対策の強化だ。ZEHやZEBの建築支援や木材利用の推進といったものだ。もう1つは、住宅セーフティネット機能の強化で、社会的な孤独・孤立の問題を抱える世帯などが住まいを確保できるようにするという内容だ。いずれも従来から着手されてきた施策であり、重要ではあるが目新しさはなく、ポストコロナを見据えた対応という点では力不足と言わざるを得ない。

 税制改正についてはどうか。重点的に挙げられている項目の多くは、期限を迎える特例措置の延長要望だ。そのような中で、時代のニーズをくんだ新設項目として目を引くのは、長寿命化させるための大規模修繕工事を行ったマンションに対する特例措置の創設だ。今後、築40年以上のマンションストックが増加する中で、一定要件を満たす大規模修繕工事が行われたマンションの建物部分の固定資産税を減額する。なぜ、マンションの修繕なのか「税の公平性」の観点から疑義もある制度だが、将来を見据えた減税措置の創設であり、政府・与党には建設的な議論を期待したい。

 最初に述べた通り、8月末の予算概算要求や税制改正要望は、年末にかけて政府・与党内での議論が本格化していく性格のものだ。本来であれば、各省庁から出てくる政策や税制改正は、将来を見据えた野心的な内容であったり、今の状況では受け入れられなくてもこの国にとって必要になると思われる政策項目を提出し、それを世に問うという気概を感じる内容があった。政府・与党の喧々諤々の議論は〝200年住宅〟と呼ばれた長期優良住宅制度の実現や、古くは住宅ローン減税の創設などにつながっていったのではなかっただろうか。

 今の経済状況に現れている通り、ポストコロナはこれまでの延長線上にあるのではない。我が国にとっては、厳しい状況になると考えるほうが妥当だ。無難な政策を並べても、こうした状況を打破するのは難しいだろう。今こそ大胆な政策を提案し、それを一蹴せず真摯に議論することが政府や与党に求められている。