政策

社説 土地を所有する意義とは 70年定借台頭で考える

 〝人生50年〟と言われたのははるか昔。今は〝人生100年〟も夢ではなくなったが、単純に長寿を祝える時代環境でないことも確かである。長期低迷を続ける日本経済、いっこうに成果を見せない少子化対策、老後の生活資金問題、政治の腐敗、地球環境問題の深刻化など、将来を覆う闇は深まる一方である。

 にもかかわらず、「地代前払い・70年定期借地権」を活用した分譲マンションが好評を博しているのはなぜだろうか。工事期間や将来の解体期間を含めると70年+αというのが実際の借地契約期間となる。この遠い未来を想定した商品が受けている理由はただ一つ。土地所有者(地主)も、借り手(マンション購入者)も東京など大都市の一等地の資産価値は七十数年後も変わらないという暗黙の了解があるからである。

 ちなみに、「地代前払い・70年方式」というのは、土地価格(現在の時価)の70~80%もの地代を一括して現金で地主に払ってしまうもので、しかも受け取る地主は一括課税ではなく、毎年均等に課税されるというメリットがある。マンション購入者にとっては普通の所有権付きに比べ15~20%安く購入できるという定借本来のメリットがある。

 では仮に「100年定借」にして、100年分の地代を払うとすると、その額は土地価格のおよそ100%、購入価格と同じになる。定期借地権の年間地代はおよそ土地価格(時価)の1%だからである。購入代と同じ額を払っても100年後は土地を返還しなければならない。そうした定借は成り立つのだろうか。ここまで考えれば「地代前払い・70年方式」の本質が見えてくる。つまり、70年という期間は15~20%オフで購入できる魅力と、70年後に土地を返還しなければならないデメリットとのバランスが微妙に取れているということである。

 それでも70年後の未来が不確実性に満ちていることも確かである。今年は戦後77年だが、日本も高度経済成長期を挟んだ戦後50年ぐらいまではある意味で先が見通せた時代だったかもしれない。しかし、それから四半世紀を経た今、日本は不確実性の真っただ中にある。

 せっかく購入したマイホームを手離してでもまとまった資金を必要とする事態に遭遇する高齢者が増えていることがそれを物語る。自宅リースバックという人気商品はそうした時代の申し子か。同商品は土地を所有していればこそ、いざというときに役立つということを教えている。ただ、それも将来的資産価値があればということだ。ということは、不確実な時代だからこそ、土地についてはその交換価値と利用価値を峻別することが重要で、そうした視点に立てば定期借地権やリースバックにとどまらず様々なビジネスモデルを生み出す可能性が生まれてくる。