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大言小語 住文化を考える夏

 暑かった8月も過ぎ去ろうとしているが、三宅一生氏、森英恵氏という日本を代表するファッションデザイナーが亡くなった夏でもある。言うまでもなく、両氏は我が国の服飾文化に大きな功績を残した。戦後、生活に密着した衣・食・住の中でいまだに文化の領域に高まっていないのは住宅だけである。

 ▼住宅は文化になりにくいのだろうか。確かに、住宅は人生に一度しかないような大きな買い物である。生活の基盤ではあるものの、購入体験が少なければ文化への昇華は難しいということか。しかし、それは大きな誤りである。住文化は様々な住まいを体験することから生まれるわけではないからである。

 ▼文化という目には見えないが人間を人間ならしめる精神性は、人間の根源と結び付いてこそ醸成され、世に花開くものとなる。食は健康を求め、衣は美を求め、住は幸福を求めてこそ文化へと昇華する。日本が住文化という領域で世界に後れを取っているとすれば、それは住まいと幸福との関係を深く考えようとする意志の薄さである。住宅政策を一時期景気浮揚策と取り違えてきた政府の責任もある。

 ▼森英恵氏がチョウの美しさにこの世の深奥を見たように住宅事業に関わる人たちが住まいの本質に深く目を向ける必要がある。己の感性に基づいて健康とか美とか、幸福という指標を商品化の過程で創造していくことが日本の住文化の礎石となっていく。