政策

社説 宅建業法改正から2カ月 ユーザーのためのオンライン化

 改正宅建業法の施行(5月18日)により不動産取引の電子契約が可能になって2カ月が経過した。大手ディベロッパーは早くも新築マンションや戸建て分譲物件に電子契約を選択制で導入するなどデジタル化への動きを加速させている。従来の書面による契約を望む人は少なく、8割の人が電子契約を選択しているという。

 その要因としては、売買契約書の収入印紙代(印紙税)が掛からないことや、書類が電子ファイル化されるため保管しやすく紛失リスクがないことなどが主な理由として挙げられている。大手ディベロッパーは今回の電子契約化をきっかけに、事前案内から申し込み登録、IT重説、売買契約に至る流れのオンライン化が一気に加速していくのではないかと期待している。もちろん本人確認やメールの誤送信防止など克服しなければならない課題は多い。実際、現状の電子契約については、本人確認に慎重を期すため原則対面で行っているようだ。

 不動産取引におけるオンライン化の流れは、これまでは投資用不動産または賃貸借契約から徐々に普及していくものと思われていたが、住宅取得適齢期といわれる世代が、既にスマホ世代で占められている今日、仲介市場も含めてオンライン化の動きは思いのほか早く進む可能性がある。そこで注意したいのは、オンライン化は業務の効率化面が強調されがちだが、最終的にはユーザー保護とその利益確保のために進められなければならないという点だ。

 ユーザーにとっても最大のメリットは住宅の賃借・購入にかかる手間や時間などの負担が軽減されることだ。しかし、そのために取引におけるリスクが増大しては元も子もない。不動産事業者側に期待したいのは、オンライン営業を行う社員の資質と職業倫理に関する一層の向上、誰が担当してもユーザーに不利益をもたらすことがないような営業社員の能力均一化だ。そして、オンライン化を契機にユーザー目線に立った市場の整備を進めていくことも重要となる。例えば賃貸借市場でのオンライン化は売買よりも早く進みそうだが、賃貸借契約は基準が定着しているわけではなく、貸主有利の契約も散見される。そこで、ある識者はこう指摘する。「賃貸借契約書の標準化を加速させること、ユーザーが選んだ物件がオーナーの意向で標準契約物件でない場合はその旨と、国交省が定めた標準契約書とどこがどう違うのかを説明することは重要だ」。

 オンライン化の進展が不動産業界に大きな変革をもたらすことは間違いない。事業者側の業務負担が大幅に軽減され、生産性向上にも大きく寄与することが期待される。売買仲介市場でもオンライン化は徐々に普及していくだろう。それによるメリットをユーザー側にどう反映していくのか。それがストック時代における流通市場活性化の鍵を握る。