政策

社説 改正建築物省エネ法が成立 脱炭素社会広まるか

 住宅・非住宅を問わずすべての建築物に断熱化などの省エネ基準を義務付ける、改正建築物省エネ法が6月13日、国会で成立した。

 政府は2030年度に温室効果ガス13年度比46%削減実現を掲げている。これまでは、非住宅にのみ省エネ基準を義務付けていたが、目標達成のためには、住宅への適用は不可避とされていた。その意味で、今回の法改正は脱炭素社会実現への第一歩となることは間違いない。

 住宅の断熱化は国民にもメリットは大きい。断熱をすることで「夏は涼しく、冬は暖かい」住まいを手に入れることができる。また、断熱によって外気からの影響を緩和することが可能となり、エネルギー消費の改善にもつながる。更に、冬季に起こる急激な室温変化によるヒートショックなど、特に高齢者に起こりがちな健康被害を防ぐこともできる。もちろん、エネルギー消費を減らすことになるので、電気・ガス代の縮減となり、家計も助かることになる。

 とはいえ、断熱化をするためには経済的負担が大きい。躯体に適切な断熱材を使い、断熱性の高い開口部材を使う必要がある。施工についても、断熱材を床・壁・天井などに適切に配置することが重要になる。こうした負担を節約される電気・ガス代と長期的に比較することや、これからも予想される電力ひっ迫状況など将来への対応など総合的な判断がユーザーである国民にも求められる。

 また、断熱化にはハウスメーカーなどの対応も必要だ。どうしてもコストが掛かり、高性能になるがゆえに技術の高度化も必要となるし、販売価格も高くなる。既に大手では、省エネ基準義務付けを見越して、新製品に対応しており、ユーザーもそれを受け入れている先行事例は多い。ただし、中小のホームビルダーでは、顧客も性能よりは低価格を求める傾向が強く、断熱化によるコスト増は直接経営に響いてくる。また、賃貸物件もオーナーの負担が重くなり、収益性の確保が難しくなる。今回の改正法には、「国民に対する制度内容の周知や中小工務店など関係事業者に対する支援の充実」を求める国会の附帯決議が付されている。政府には、補助や融資、税制などで十分な支援を行うよう求める。

 今回の改正法の施行は3年以内とされており、すべての新築建築物に省エネ基準が適用されるのは、25年度の予定だ。同時に考えなければならないのが、日本に5300万戸あると言われる既存住宅への対応だ。リフォーム・リノベーション工事による断熱性能の向上などをより一層進めていくために、基準対象に加えるなどの施策が必要になるだろう。果たして、どれだけの国民がこれを受け入れられるか。この3年間で改正法が人口に膾炙され、今後既存住宅にもスムーズに受け入れられる状況になっていることを期待する。