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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇48 「何が問題か」が問題 〝手数料〟では見えてこない未来 なぜ〝報酬〟と言わないのか

 宅地建物取引業法上は媒介報酬(報酬告示)と言うのに、なぜ業界は仲介手数料と言っているのか。手数料とは「ローン借り換え手数料」などのように、一定の手続きに対する対価として事前に定めてある料金のこと。では、仲介(媒介)というサービスは〝一定の手続き〟に過ぎないのだろうか。

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 そうではないと思う。特に買い手のためには希望条件に合った物件を探し、あらゆるリスクをチェックし、周辺環境を調べ、価格交渉を行い、住宅ローンの説明・あっせん(無償)も行う。この世にまったく同じ不動産は存在しないのだから、提供される労力は千差万別で予測不可能。しかも最終的に成約に至るかどうかは不明だ。

 これほど、高度で依頼者の利益保護も義務付けられている専門的仕事に対する対価を手数料と呼ぶのはどう考えてもふさわしくない。更に言えば、媒介報酬は手数料のように支払うことが事前に定まっているわけではない。報酬を受け取ることができるのは契約締結時(成功報酬)であることは宅建業法でも定められている。

 では、法律上も業務実態も成功報酬であるものを〝手数料〟と呼ぶことの「何が問題か」。仲介は高度に専門的で千差万別でコンプラインスの純度までもが求められる業務なのに、実はその中身はブラックボックス化している。

 買主などには提供された仲介サービスの品質を客観的に評価する手立てがない。手数料という表現はそのことに波風を立たせない効果があるように感じる。これは消費者にとっては所詮一生に一度程度のことだから大した問題ではないが、それでよしとしている業界に未来はない。

 仲介という仕事を本当にやりがいのある、プロフェッショナルで楽しい仕事にしなければ不動産業界に若い人材が寄り付かなくなるからである。今こそ「仲介の見える化」が求められている。

管理業も見える化

 今年から賃貸住宅管理業法が本格スタートする。日本賃貸住宅管理業協会(日管協)はそれに合わせ、このほど協会として推奨する管理業のあるべき姿と業務内容を85の項目に整理した「セルフチェックブック」を作成した。

 管理の内容を細かく項目別に分けることで業務を透明化し、オーナーとの信頼関係を強化していくのが狙いだ。

 同協会の塩見紀昭会長は18日に開かれた不動産流通支援機構の講演会でこう語った。

 「管理という仕事はコロナ禍でも管理料をいただくことができるありがたい仕事。管理料の源である家賃はオーナーにとっては365日・24時間働き続けてくれる利子のようなものだ。だからオーナーも我々管理業者もこうした職に就いていることに感謝し、人々の人生の一助になるような業界に発展させていく努力を忘れてはならない」

細かいから仕事

 今年創業66年の北澤商事(東京足立区)代表取締役会長で、08年1月から09年9月まで日管協会長を務めた北澤艶子氏は「仕事は細かくて当たり前」を信条としている。これは、もともとは艶子氏の母の口癖だったという。

 創業当時はまだ誰も手掛けていなかった賃貸管理の仕事から始めた。同業の不動産業者からは「よくそんな細かい仕事をするね」と揶揄もされたという。各アパートの電気、ガス、水道のメーターを検針し、計算をして家賃と一緒に集金をする。当時はまだコンピュータもパソコンもなかったからすべて手書きだった。「しかし、そうした努力のおかげで信用を得ることができ今日がある。細かくて面倒な仕事を続ける努力をしてこそ、社会から信頼される業界になる」

 艶子氏は「不動産女性塾」の塾長でもある。隔月で開かれるセミナー冒頭のあいさつでは必ずこう呼び掛ける。

 「不動産業ほどやりがいのある楽しい仕事はない。人々の大切な住まいのお世話をしてお金がもらえる。だからこそ、未来の若い女性たちが誇りをもって入ってくるような明るい業界にしていきたい」