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円安、資源高(上) クローズアップ 収益とコストの攻防戦 不動産大手も正念場へ 経済悪化シナリオ警戒 インフレが消費者心理を揺さぶる

 新型コロナウイルスで疲弊した経済を支えようと、主要先進国は金融緩和にカジを切り、市場にあふれた緩和マネーが株式や不動産などの資産価格をつり上げてきたが、インフレが高水準で定着している米国はインフレ退治として利上げに踏み切った。一方で、日銀は金融緩和維持の姿勢を崩していないことから日米金利差に伴う円安が加速している。ロシアがウクライナに軍事侵攻して資源価格の高騰に拍車をかけており、資源を輸入に頼る日本にとって円安とのダブルパンチに見舞われている。経済との連動性が強い不動産業界も予断を許さない。

 不動産開発で手当てすべき土地の値段は、すでに高水準だ。そこに鋼材・木材などの資材価格が上がり続ければ、土地を取得した時点での企画で作ることを難しくする。

 分譲マンション開発では、需給と建設コストとの見合いを探るステージに突入した。開発の規模にもよるが、分譲マンションの場合は、一般的に用地を仕入れてから1年の間に着工する。鉄骨は着工の半年ほど前までに発注し、着工約3カ月前までに材料が納品されて現場に搬入できるよう製作を始めるが、その間に資材価格が上昇すると、企画内容とコストが見合わない状況になる可能性がある。

 建設コストの上昇は二極化を浮き彫りにする。不動産大手は、所得の高い層に照準を当てて事業展開しているため、販売価格に転嫁しやすいが、マンション専業デベは価格転嫁しにくい。大手は値下げせずじっくり待って販売でき、多くの専業者は早期に投資回収できないと経営上厳しさが増す。大手寡占がいっそう進む公算が大きくなった。

資源高の長期化に懸念

 東京カンテイによれば、20 年の新築マンションの価格は東京都で年収の13倍を超えて年収倍率で見たときの価格は相当に高まっているため、今後の金利動向にも懸念が及ぶ。米国の金利は急ピッチで上がる見込みだ。欧州も追随するとみられ、金融政策は不動産のセンチメント(市場心理)に直結しているだけに日銀の動向にも注目が集まる。

 ロシアへの先進国の経済制裁により、インフレ基調やサプライチェーン(供給網)の混乱と制約は一時的というより23年以降も一定の長いスパンで経済の下押し圧力になることが見込まれる。原材料価格の高騰が長期化すれば、企業収益性が悪化するリスクが高まり、これに伴い個人所得に悪影響を及ぼすことにでもなれば分譲マンションの購入意欲をそぎ落としかねない。

 日本経済の見方に対して、ムーディーズ・アナリティックス・ジャパンのシニアエコノミストであるシュテファン・アングリック氏は、「コロナ懸念の長期化で消費や設備投資が停滞し、国外環境がさらに悪化することで供給制約やインフレが進み、日本経済が再び悪化する可能性がある。一方で需要や賃金が増えて国外の環境が予想よりも早く改善すれば経済は好調に推移する可能性がある。ただ、当社のベースライン予想として、この2つのシナリオの中間に位置するが、やや悲観的なシナリオに近い」と話す。

ゼネコン優位性が剝落

 そうした中で、オフィスビルの新規供給は東京でこれから増加し、23年の空室率が上がる指摘は少なくない。コロナ当初には、オフィス不要論まで出たが、大和不動産鑑定(東京・一ツ橋)の竹内一雅・主席研究員は、「オフィス賃貸市況は、企業が通勤と在宅勤務のハイブリッド型を採用していることから、企業がどの程度まで床を返すのか。その動きとの見合いで決まる。募集賃料は弱含みが続くが、空室率は年末に向けて徐々に改善に向かう」と観測する。

 ムーディーズ・ジャパンの西尾稜平アナリストは、「ビル市況について新築と既存を含めて賃料と空室率の動向に予断を許さない状況に変わりはないが、不動産大手各社の開発に対する投資回収の利回りや期間の目線が変わっているわけではない。テナントへの訴求力の観点から、コロナ禍を受けた新たなオフィス戦略の提案や実装が具体化・進展していくだろう」と指摘する。新たな再開発については「資源高のコストアップを施主である不動産会社がすべてかぶるわけではない。国内建築の受注競争が激しい中で、コスト負担をゼネコンなどとどのように分けていくのかに注目している」と話す。

 ゼネコンの事業環境は、都心の大型案件を中心に厳しさを増している。復興需要と東京五輪需要で華やいだ時期はコストアップを施主側に転嫁しやすかったが、その優位性は剝がれ落ちている。

 先行き不透明感は増し、全く違った風景になった。世界の主要国と異なる金融政策で円安も急速に進んでいるが、日銀の黒田東彦総裁の任期中は、カネ余りの解消はないとの見方で市場関係者は一致する。実際、足元の不動産取引は低い利回りにもかかわらず、売買価格がなお上昇基調をたどっている。(中野淳)