政策

社説 新しい不動産流通のあり方 仲介者指名制は時代の要請

 居住用不動産売買における取引依頼者と仲介担当者をダイレクトにマッチングするプラットフォーム事業が大手仲介会社によって今春始まる。登録されている仲介担当者の実績やスキルなどの個人情報を判断材料にして、取引にふさわしい仲介担当者を依頼者自らが選ぶことができる試みだ。同社は中立的立場でプラットフォームの運用に徹し、仲介プレーヤーとしては参加しないとしている。売買取引における選択の幅が広がることになる依頼者はもちろんのこと、仲介会社にとっても新しい不動産取引の可能性を示したビジネスモデルだ。

 かつての不動産業界では、会社都合により営業担当個人の情報開示は長らくタブー扱いとされてきた。競合他社の引き抜きなどによる優秀な人材の流出を防ぐためだった。こうした流れを変えたのがデジタル化の進展だ。企業や営業店舗でウェブページを設けるのが一般化してからは、徐々にスタッフのプロフィルなどを公開することが広まっていった。それでもいまだに取引依頼者は、仲介会社を選ぶことはできても仲介担当者を指名することはできないに等しい。また不動産仲介においては物件情報の広告が先行するのが常で、その広告にひも付く業者が仲介業者となるのが一般的だ。この仲介担当者と取引依頼者を結ぶマッチングサービスが、物件広告ありきという業界慣習に風穴を開け、業界に一石を投じる取り組みともいえるだろう。

 依頼者が個別の事情や取引内容にふさわしい人材を指名できることになると、個人の能力や知識、スキル、得意分野などがますます重視されていくことなる。安全、適切に取引を媒介することは当然として、より高い付加価値が仲介担当者個人に求められることになる。不動産実務の多くがDXにとって代わられていくともいわれる中で、資質向上やスキルアップに取り組む意識の高い実務者が増えていくことが期待できる。

 一方、不動産業界でDXサービスを積極的に展開しているテック企業にとってもこの新しい取引のあり方は追い風だ。人材情報やマッチングといった事業領域はDXとの親和性が高い。テック企業が追随してくることは十分予想され、今後、異業種がプラットフォーム運営という形で不動産流通に一層介在してくる可能性も高い。

 本紙は今号で創刊75年の節目を迎えた。終戦直後の住宅不足解消の一助として住まいの情報を広く早く流通させることから始まった。この3四半世紀、常に物件情報が不動産流通の中心にあり、これが大きく変わることはないだろう。しかし不動産取引がより多様化を見せていくと共に、市場の透明性をこれまで以上に高めていかなければならないことは明らかで、仲介担当者を指名するという〝人材〟から始まる不動産取引が裾野を広げていくことになるだろう。