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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇43 セカンドオピニオン 買い手エージェントの新業務に 流通業のプロフェッショナル化促進

 現代社会では街を行き交う多くの人たちがスマホを携帯している。歩いているときも、電車の中でも、コーヒーを飲みながらでも瞬時を惜しむかのように操作に熱中する光景に未だになじめない。街に出ても活気というものが感じられないからだろうか。特にほぼ全員がうつむいている電車内の光景は皆どこか淋しげで、満たされない何かを抱え、ぽっかりと空いた穴を指先で埋めようとしているかのようにも見える。確かにそこは公共空間ではあるが、自分と関係のない他者への徹底した無関心ぶりはどこか異常でもある。

 人間はよくも悪しくも人との柵(しがらみ)が全てである。「人の間」と書くように、喜びも苦しみも対人関係に支配されている。その柵から逃れようとすることは人間にとっての〝豊かさ〟を意味しない。所詮、柵の外に出ることは不可能と知れば、人への繊細な関心と人間関係への深い考察が必要になることを悟る。

 これを比喩的に言えば、街で袖擦り合った人間にも自然に関心が向かうような潤いが人間社会には必要ということだ。一昔、いや二昔前まではバスに乗っていても電車の中でも、新たに乗ってくる乗客には当然のように視線を向けたものである。特に女性は同性に対する品定めの鋭い視線を投げ、羨望したり軽蔑の眼(まなこ)を向けたりしていたものだ。ところが今は男も女もまったく無関心。むしろ車内では無視し合うことが暗黙のルール、またはマナーになっているかのようである。

 それにしても、現代人がこれほど愛してやまないスマホとは何か。スマホがなければ生きていけないという人さえいる。おそらく、自分の関心事や分からないことには次から次へと答えてくれるロボット、まさに「のび太にとってのドラえもん」のような存在、〝マイロボ〟である。

 人間がロボットや機械に依存すればするほど、人間の感性は劣化する。感性が劣化した人間に人間社会を導いていくことなどできるのだろうか。いずれはその役割も巨大にシステム化したAIに委託することになるのではないか、という不気味な予感さえ抱かせる現代である。

人に尽くす

 現在進行中の「働き方改革」は、組織のために尽くす個人というより、個人としてのキャリアを重ねつつ組織に貢献するという方向に向かっているように思う。日本の雇用形態が従来型のメンバーシップから欧米型のジョブ型へ徐々に移行しつつあるのはその象徴だ。不動産仲介の世界でも営業マン個々の能力に着目する「エージェント化」の方向が模索され始めた。

 不動産流通推進センターが認定する資格者、宅建マイスターと公認不動産コンサルティングマスターの集まりである一般社団法人不動産流通プロフェッショナル協会は今年2月に行った推進センターへの提言の中で興味深い提案を行っている。それは、上級宅建士という位置づけの宅建マイスターの業務としてセカンドオピニオン業務を規定するというものだ。具体的には、物件は気に入ったが業者が不安、取引内容に懸念がある、気を付ける点は何かなどをクライアントからの依頼に基づき診断する。診断に対する対価は受領するが、取引そのものへの介在はしない。また、売主側エージェントは売主からしか報酬を受領しないようにすれば、買主がセカンドオピニオンを利用しやすくなるとも提案している。

 本当のプロフェッショナルとは、人のために働く者のことだ。組織のためではないし、ましてや法律のためでもない。宅建士は士業(プロフェッショナル)になったといわれるが、今でも不動産会社が宅建業法を満たすための人的要件という位置付けが強い。クライアントの代理人的立場で働くプロフェッショナルというイメージが確立されていない。

 その意味で、高い志を持った宅建マイスターと不動産コンサルティングマスターらが結集する不動産流通プロフェッショナル協会の活動が、今後の不動産流通を担う真の専門家としての道筋を示してくれるものと期待する。