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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇42 多様化する集客方法 企業も個人も個性の時代 人間の気遣いとは

 これまでポータルサイト重視だった不動産仲介会社の集客手法が多様化し始めた。ユーチューブ配信、ブログ、ホームページ強化などその活用ツールは様々だが、共通するものがある。それは自社の理念、住まいに対する考え、営業マンの実績・個性、本当の得意分野などをユーザーに発信し、物件を選ぶ前に自社や自社の営業マンを選んでもらおうという発想だ。

 ユーザー側も近年はポータルサイトでの物件検索に疲れ気味だ。様々な条件を設定した住まい探しを繰り返すうちに、自分が本当に求めている住まいの確たる部分が分からなくなってくる。詳細ながらも絞り込み条件の画一性には疑問も抱き始めた。つまり〝物件先行〟ではなく、実現させたい暮らしのイメージにマッチした会社や、気軽に相談でき、しかも信頼できる営業マンと出会いたいという傾向が強まっている。

 ポータルサイトでは物件数が豊富で有利といわれてきた大手も肝心のユーザーがそうした物量作戦に飽き足らなさを感じ始めたということなら戦略の方針転換を迫られる。まさに企業と個人が個性と個性で勝負する時代に入りつつあるように思えるのだ。

コーヒーもAIで

 個性といえば、AIが個人のテイストに合うコーヒーをブレンドして提供する無人販売機(ロボット)が都内の駅などに設置され始めた。顧客は通勤途上の電車の中からスマホで到着時間と受け取る場所などを予約すれば、淹れたてのコーヒーを専用ロッカーから受け取ることができる。飲んだあとで味についての感想を書き込むと次回からはAIが更に好みに合ったコーヒーを提案してくれる。

 このAI無人ロボットを開発した会社の社長は「あらゆる業界に無人ロボットを導入していきたい。人の仕事を奪うということではなく、人間がより豊かな生活を送れる世界をめざす」と語る。

 不動産業でも近時はAIやDXで顧客の好みや習性にマッチした接客方法を選んでアプローチする傾向が強まっている。コーヒーと同じで顧客の好みを知り、気に入ってもらえる商品やサービスを提供するようにすれば顧客を〝ファン化〟することができる。ただ、これって昔は人間同士が対面で行っていたことでもある。 

 近年はすっかり少なくなったが、近所にある個人店主による喫茶店に通えば、黙っていてもお気に入りのコーヒーを出してくれる。居酒屋でも常連客の好みや酒量は分かっているから決して悪酔いはさせないし、カウンター席では気の合う常連客同士が並べるような気遣いもする。常連はそうした店主の気遣いをうれしく思いながらも、あえてそれには気付いていないふりをして、いつものように何気なく飲むのが楽しいのだ。

豊かさとはなにか

 ところで、人間の生活にとって豊かさとはなんだろうか。従来型の自動販売機で缶コーヒーを買うよりも、指定しておいた時間に熱々で、自分の好みにマッチしたコーヒーを飲むことができれば確かにちょっとうれしいし、心も和む。

 それは相手がAIとはいえ、そこに自分への気遣いを感じるからだ。しかしそれは喫茶店や居酒屋の店主による気遣いとは何かが違う。何が違うかといえば、気遣いの質である。人間には気遣いをそれと感じさせないやさしさが加わっているということだろうか。

 せっかくの気遣いが押しつけになったら台無しだ。その意味で気になるのが不動産業で頻繁に使われる〝追客〟という言葉である。集客は「来る者は拒まず」で積極化しても問題はないが、「去る者は追わず」という思想もある。住宅購入を断念した者や迷っている者への追客が、気遣いを逸脱して〝執拗〟に変わってしまってはならない。

 つまり、集客をポータルサイトだけにたよらず多様化することはユーザーのためにもなるが、難しいのは〝追客〟のほうである。そこはよほど慎重にしなければ、AIやDXを駆使した精密な顧客分析も水の泡となる。