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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇40 為すべきこと サービス業の頂へ 報酬規制は時代錯誤

 〝「わが家」を世界一幸せな場所にする〟は積水ハウスのグローバルビジョンだが、その大切な住まいを流通市場で担うのが仲介担当者である。今、その仲介担当者の能力やサービスの品質を問う動きが強まっている。

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 積水ハウスなど大手ハウスメーカー10社で構成する「優良ストック住宅推進協議会」は大切な住まいの仲介を安心して託すことができる「スムストック住宅販売士」(以下販売士)という資格制度を設けている。

 住宅の仲介には、土地だけでなく建物の構造や設備、性能などに関する知識も求められるため、様々な試験や研修をクリアした者を販売士として認定している。

 築年を経た住宅の流通促進には建物の適正な査定が欠かせない。販売士は査定時の建物点検が的確なため、売主・買主双方から信頼できるパートナーとして評価されている。ただ、〝スムストック〟には大手ハウスメーカーが建設し、その後も定期的なメンテナンスを行ってきたという信頼の土台があることも確かである。

 しかし一般中古市場はそうではない。玉石混交の物件が流通する市場での信頼確保はどうすればいいのだろうか。そもそも不動産業界はその難題にこれまで真剣に取り組んできたと言えるだろうか。

 第一に取り組むべきは、大切な資産を扱う売買仲介者全員を対象とした公的資格取得の義務化である。宅建士試験のような高度のものではなく、土地と建物に関する基礎的知識とコンプライアンスに関する意識を問う簡易な試験とし、受験機会も年に4回程度は設けるべきだろう。

 仲介担当者全員が持つそうした土台となる資格があってこそ、不動産業界全体の底上げが可能となる。業界全体に国民の信頼が浸透していればこそ、さまざまな上級資格に対する信頼度も増す。

自由競争を阻害

 次は媒介報酬の自由化だ。体裁は上限を規定しているだけだが、実態は提供されたサービス内容にかかわらず上限額が請求される。これに飽き足らぬ心ある仲介担当者がサービスの品質を上げようとしても会社は今以上の報酬を受領することができないので了解しない。しかし、不動産業界の外に目を転じれば、提供するサービスの対価に上限を設定して、良しとしている業界は見当たらない。弁護士、税理士、司法書士などの報酬にも上限規制はない。

 不動産業界を精力的に取材している夏原武氏(漫画『正直不動産』原案者)は言う。「手数料の上限規定は自由競争の阻害以外何ものでもない。上限規制を許している背景には『契約しました。手数料が入りました。じゃあさようなら』というスタイルが業界にあるからです。その証拠に、業績が伸びている業者さんたちに話を聞くと『うちは契約してお金が入ってからお客さんとの付き合いが始まるので手数料は自由にさせてほしい』と言っている」

 つまり、契約後にも提供していくべきサービスは多々あるので、むしろそこで勝負したいので、そのためのコストも含めて報酬は自由化してもらいたいということであろう。実は業界の外に目をやるまでもなく、不動産コンサルティングマスターによるコンサルティング報酬にも上限規定はない。

 媒介報酬自由化は、いくら請求されるか分からないので顧客が不安になるという指摘があるが、実態的には各社がそれぞれの媒介報酬規程を定めることになるだろう。それを店舗に掲示するとともに、社員が顧客に分かりやすく説明すれば済むことである。

 資本主義の日本で自由なサービス競争ができないこと自体おかしなことである。仲介のコンサルティング化が進み始めたと言われて久しいが、相続、資産形成、金融、老後対策など提供すべきサービスの高度化ニーズは高まる一方だ。サービス業の中でも最も高額な資産を扱う不動産仲介業こそサービスの品質が問われるはずなのに、媒介報酬が自由化されていない現実は極めて不思議なことと言うべきである。