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モルガン・スタンレーMUFG証券  竹村淳郎アナリストに聞く 年後半、日銀 金融政策を変更か 物件流動性は銀行の姿勢を映す 「短期金利の上昇も織り込みへ」

 国内の経済情勢に暗雲が漂い始めている。新型コロナウイルス感染症の大流行が収まらず、海外主要国がインフレ退治に向けて金利を引き上げる政策にかじを切る中で低金利を続ける日本は円安が進行しており、ロシアのウクライナ侵攻に伴う地政学リスクが表面化したことで原油などの資源価格が高騰するなど今後の景気動向は予断を許さない。相次ぐネガティブ要因を受けて、モルガン・スタンレーMUFG証券で不動産関連業界を分析する竹村淳郎アナリストに見通しなどを聞いた。

 ――コロナの影響は2年に及びますが、どう見通しますか。

 「経済再開が持続的なテーマとして意識される可能性が高い。ポジティブな見方としては、オミクロン株拡大のリスクが後退し、経済再開の本格化を見据えて潜在的な利益のアップサイトが見込めたり、オフィスビル市況が改善すると同時に悲観的な先行き見通しも後退する。

 商業施設の賃料収入の底入れも近くホテルの収入も改善余地が大きい。2年に及ぶコロナ対応に国民は疲れ、落ち込みすぎた反動もあり、経済活動も多少は戻るだろう。

 半面、テレワークの定着で想定以上に拠点の集約・解約が進むと同時に賃料が下げ止まらない可能性や、長期金利の先高観が持たれていることなどにも留意は必要だが、不動産開発大手の方向感としては、エンデミックを視野に入れて期待している。

 年初から振るわないJリートだが、分配金利回りを求めて買われやすくなる可能性もある」

 ――米国の利上げは、日本銀行の金融政策に影響を及ぼしますか。

 「当社のマクロチームは年の後半に日銀が金融政策を変更するのではないかと見ている。

 次の日銀の審議委員にタカ派的な人事案が出された。23年4月の黒田東彦総裁の任期満了を見据えての人事として注目されているが、リフレ派が減ることで金利に先高観が出て、市場は長期金利だけでなく短期金利の上昇も年後半から織り込み始める。米国の国債10年利回りは年末までに2.3%まで上昇すると想定している」

 ――住宅・不動産会社の事業への影響について。

 「金利の先高観を受けて米国のように分譲住宅で駆け込み需要が発生するかは不透明だが、不動産事業者、特に開発大手に対する直接的な悪影響は出ない。資金調達の面では、大手各社は長期の固定金利で対応しているので、金利が上昇したことで急に利払いが増えてPL(損益計算書)が傷むことはない。とはいえ、実物不動産は実質金利と連動する。23年以降に実質金利が上昇してくれば物件価格がダウンサイドに振れるリスクが出てくる。また物件の流動性、すなわち借り入れとエクイティの調達しやすさが最も重要であることから、世界的なテーパリング(量的緩和の縮小)によって金融機関の貸し出し姿勢やエクイティの出し手のスタンスに変化が出ないかについては注意を払いたい」

 ――ウクライナ情勢が大きな波乱要因です。

 「株式市場を見ると、過去の戦争と違う動きを見せている。従来ならば戦争が始まって株価が急落してもそれは最初の頃だけだが、今回は依然として弱含みで乱高下も激しい。米国も戦争が始まったことで利上げを止めるという選択肢はなくインフレ退治に動いている。ただ、この戦争が景気を冷やせば住宅・不動産業界に現状の想定とは異なるシナリオが待ち受ける可能性もある」

 (聞き手・中野淳)

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【略歴】たけむら・あつろう=2016年3月にモルガン・スタンレーMUFG証券入社。三井住友銀行、クレディ・スイス証券、バークレイズ証券で一貫して不動産業界、Jリート業界の調査を担当。日本証券アナリスト協会検定会員。一橋大学商学部卒業。埼玉県出身、39歳。