転機(下)不動産業界の急所 金利上昇に備えよ 景気腰折れ懸念が急浮上 「インフレ退治+地政学リスク」 不動産大手、資産の質と流動性が強み

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リスク要因をあぶりだして事業戦略に反映させることが生命線だ
 住宅・不動産の事業環境に厳しさが増している。新型コロナウイルスの新種株オミクロン型が急拡大して東京だけで日々1万人を超える新規感染者が出ており、昨年末のコロナ鎮静化による特需期待は剝落する。米国は事実上のゼロ金利解除を3月15、16日に決める。資源高に伴う資材価格やエネルギー価格の上昇が粗利益率を押し下げる懸念が強まり、ウクライナ情勢がコスト高に拍車をかける。国際社会のロシア制裁が世界の金融決済機能に影響を及ぼすなど景気下振れ懸念に目配せが必要だ。コスト競争力と資材調達力で優位性を発揮する大手各社でさえ予断を許さない。

 不動産大手各社の今期(22年3月期)業績は、国内外の経済環境に不透明感が強まる中でも、分譲事業の新築マンションや仲介事業の売買などが好調に推移している。テレワークの普及により企業の拠点集約・縮小など床の返上が続くオフィス事業、コロナの直撃を受けた商業施設とホテルなどの事業部門を補完して業績予想をクリアする見込みだ。三菱地所は売却益などで今期業績予想を上方修正した。三井不動産も計画に対してやや上振れが予想される。

エネルギー価格は高騰

 次期(23年3月期)の展開にも注目が集まる。主力のオフィス事業は空室率の天井と賃料の底を探る局面が続く中で、4月下旬から5月にかけての決算発表で新たな中期経営計画を発表する予定の会社は少なくない。東急不動産ホールディングスは、31年3月期を最終年度とする長期ビジョンを昨年策定しており、営業利益で1500億円以上、当期純利益が750億円以上を計画しているが「5月に発表する予定の中期経営計画で、より具体的な見通しを打ち出す」(市場関係者)と見られる。住友不動産は売上高3.1兆円を掲げた22年3月期を最終年度とする3カ年中計が終了するため次の一手が注目される。

 各社とも次期の事業戦略を練り上げる上で、経営者は金利、国内景気、そして数カ月前まで想定外だった海外情勢の悪化という幾重にも不透明感が重なり、リスクを取りづらいジレンマを抱えている。世界経済の混乱を受けて景気の悪化も予想される。ロシアのウクライナ侵攻を織り込んでいたわけではないが、メガバンクの与信関係費用はそろって増加している。

 地政学リスクに対する反応はすぐさま原材料費に現れた。原油の先物相場(WTI)は13年半ぶりの高値圏に達した。鉄鋼にも影響を及ぼす。原油などの燃料費が上がることで高炉各社による溶銑費も値上げが見込まれる。ロシアは有力な金属の輸出国であるだけに同国から調達できない状況となれば金属相場が上がる可能性が高いとの見方が広がっている。もっとも、ウクライナ危機がなくても金融引き締めを発端にした景気後退入りによって鉄鋼材の消費が落ち込むシナリオが一方で待ち受けているとの指摘もある。

高利益の追求に黄信号

 日本鉄鋼連盟の発表によれば、21年12月の普通鋼鋼材の受注(内需計)は336万トンと(前年同月比1.1%減)と4カ月連続で減少した。建設用は9.3%減となり、このうち住宅向けが45.6%減と大幅な落ち込みとなった。2月28日の速報値を見ると、1月の普通鋼鋼材生産は5089万トン(前月差262トン減)となり、前年比も11カ月ぶりにマイナス圏に沈んだ。昨年12月の新設住宅着工戸数は1年前との比較で10カ月連続、非住宅着工床面積が同3カ月連続で増加していることでマイナスは一時的との見方があるものの、慎重論は消えていない。

 在宅時間が長くなり、住まいに目が向くようになった消費者は高付加価値を求めるようになったことで高水準の利益計上の継続に期待が掛かるが、原材料費の値上げに伴う価格転嫁と金利の上昇が進むことに消費者はどこまで付いてこられるのか黄信号がともっている。

 世界の安全保障の悪化をきっかけに企業活動が委縮すれば、23年に新規供給される大型オフィスのリーシングが遅れる可能性もある。そのシナリオが現実ともなればオフィスビル市況のダウンサイドが深まる。「リーシングに進展がなければ東京都心5区の空室率は23年末までに8.0%程度まで急上昇することが懸念される」(モルガン・スタンレーMUFG証券)との観測がくすぶり続ける。

経営環境は激変へ

 住宅・不動産大手は海外にも進出しているが、三菱地所では今期業績に海外を中心に売却益の増額が見込まれており、次期も英国で保有する物件のキャピタルゲインが想定される。

 ムーディーズ・ジャパンで日本の不動産セクターを担当する西尾稜平アナリストは、「現状、ウクライナ情勢による日本の開発大手の格付けへの影響は極めて限定的である。当社が格付け対象とする三井不動産と三菱地所は、いずれもロシア・ウクライナ周辺地域での事業展開がない」と話す。経営者が注意しておくべき留意点については、「シナリオとして、経済制裁の強化による景気回復の鈍化や、資産価値のボラティリティ上昇などのリスクが考えられるものの、2社とも強固な流動性を持ち、資産の質も非常に高いことで信用力への影響を緩和することが可能だ」と見ている。インフレ退治で高まる利上げ機運に加えて軍事衝突に伴う経済環境の変化など経営陣はかじ取りの精度が問われる局面を迎えている。

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