政策

社説 IT時代の不動産業界 情報産業としての責務を果たせ

 パンデミックが企業のオンライン導入の推進力となった。社内会議にとどまらず商談でも使われる。「不動産テック」という言葉が市民権を得つつある中で、契約に対面が義務付けられていた住宅・不動産業界も非対面取引が本格化する。ITの発達で社会は一変し、瞬く間に情報が世界中を駆け巡り、ビジネスの成否に直結する時代となった。不動産は情報産業だ。ただ、必要な情報が一般消費者に伝わっているとは言い難い。

 振り返れば、不動産テックは投資領域で導入が進んだ。自治体の人口動態や税収など公的データと個々の物件の管理状況などを使って収益不動産の価値を推し量り、賃料下落率を分析しながら将来の不動産が生み出す収益性を想定する。投資対象の物件価値を定量的に評価することで投資家に安心感を与えて取引してもらうためだ。

 実需はどうか。安心して取引できているか。ネット上には情報があふれて消費者と不動産会社の情報格差が縮んだとされるが、中古マンションを都内で購入した40代男性は、「時勢に合わない割安感を覚えたので現場で理由を尋ねると、事故物件だった」と都合の悪い情報を隠す体質だと憤慨する。情報量が格段に多くなったのは間違いないが、玉石混交で消費者が右往左往する姿が浮かび上がる。

 中古取引のネックとなるのが、売主と不動産会社が情報を握り、それが買主に適切に伝わっていないことだ。中古ほど情報が欠かせないのにそれが整備されていない。価格設定で二重価格のような広告も見受ける。不動産会社の情報の出し惜しみ、両手仲介につなげるために「商談中」と偽りの情報で買い手を取り次がない。これでは買主責任を問いづらい。ビジネスモデルに構造上の問題があると指摘されても仕方なかろう。

 ポータルサイトも不動産会社からの広告料を収益源の柱としているため、消費者ではなく広告主の不動産会社に顔が向く。不動産テック会社がポータルサイトに取引価格の変遷について尋ねると、「不動産会社から待ったが掛かる」と及び腰だ。消費者が知りたい情報と利益を論じることなく淡々と広告主の物件情報を掲載する。

 よく引き合いに出される米国との比較で見れば、不動産取引に関する情報は質と量で明らかに劣る。釈迦に説法だが米国は成約価格の推移がチェックでき、地域情報も細やか。個人情報の扱いは日本と異なるとの反論もあろうが、米国を不動産先進国として持ち出して理論武装をすることもある。つまみ食いは〝ご都合主義〟と取られかねない。情報を出す側のスタンスが問われている。情報格差を維持して取引の主導権を握りたいとの思惑に駆られるより、情報を出さないことが事業好機を逸している可能性があり、不動産テックの波に乗り遅れていると考えたほうがいい。情報産業としての立ち位置をいま一度見直す時期に来ている。