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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇34 儲けが先か、それとも どう仕事と向き合うか 男の論理、女の感性

 一口に不動産業と言っても誰のためになんのために働くかで、その価値観は大きく異なる。売買、販売代理、買い取り再販、地上げなどは会社が利益を上げるための仕事だが、個人間の取引をつなぐ仲介は素人間の取引をプロが無事成立させるための仕事である。つまりエンドユーザーのために働いている。

 だから、そこで得る仲介手数料には無事に成約できたことに対する感謝の意味合いが込められている。より正確にいえば、それは手数料ではなく「報酬」である。その証拠に依頼者のために働く弁護士が得るものを弁護士手数料とは言わない。弁護士報酬である。まして弁護士事務所が儲けたとは言わない。

 このことをもって、竹井英久氏(アトリウム会長、元三井不動産リアルティ社長)は「だからこそ仲介は売買などとは別体系の仕事にすべきで、そのほうが士業に近くなる」(不動産流通推進センター座談会より)と指摘する。仲介がエンドユーザーのために働く仕事であることを忘れないために必要なのが仲介という仕事に対する職業倫理(コンプライアンス)の確立である。そこで、仲介という仕事に携わる者は誰もが取得しなければならない国家資格をつくるべきと考える。試験問題は倫理と不動産の基礎的知識に限定する。

 竹井氏もそれを提案している。「全員資格となるので1級・2級とあってもいいかもしれないし、賃貸は売買仲介とは違うので賃貸業務に特化した資格をつくる考え方もある」(弊紙2月1日号7面『竹井英久の思案あれこれ』より)。

 竹井氏は国家資格でなくとも、既にある全宅連の不動産キャリアパーソンや不動産流通推進センターの宅建アソシエイトのようなものを調整して民間が必須資格として整備すればいいという考え方を示している。ここは大事な点で仮に国家資格であってもその運用は業界が主体的に行うべきだと思う。具体的には例えば、「故意に倫理に反する業務を行い消費者に不利益をもたらした営業マンはその資格をはく奪し不動産仲介の仕事ができなくなる」措置を業界が自ら自主規制として行うべきである。

「女性塾」の志とは

 仕事に対する倫理観は男性と比べると女性のほうが自然に身に着けているようにも思える。北澤商事(東京・足立区)会長の北澤艶子氏が塾長を務める不動産女性塾はこのほど創立5周年を記念して『凛として輝く、不動産こそ我が人生!PARTⅡ』(プラチナ出版)を出版した(7面新刊紹介参照)。31名の女性経営者らが不動産業などに対する熱い思いを綴ったものだが、そこには共通した一つの思いがある。それは「人のため、地域のために役立ちたい」という経営者としての高い志である。

 全社員が仕事時間の4割を地域貢献活動に当てているという不動産会社の女性経営者はこう記す。「みなさん、へぇーと思われますが、地域の課題や問題を仕事ではないから、お金にはならないからと避けてしまうのではなく、それが大切なことか、私たちに解決できるかという判断で社員みんなが本業のようにやり始め、やり続けています」。

 仕事とは本来〝世のため人のため〟にあるというのが高度経済成長期までの日本人の感覚ではなかったか。同書の底辺に流れるのは不動産業に限らず「仕事とは何か」を日々問い掛けながら仕事と向き合う感性こそ大切という思想である。

 論理的思考が得意の男性経営者が多い不動産業界だが、近年は女性経営者らの存在感も強まっている。1月20日からスタートした日管協の「人財ネットワーク制度」も同協会のレディース委員会(濱村美和委員長=不動産中央情報センター社長)の発案で実現した。同制度は配偶者の転勤や親の介護などで会社を辞めざるを得なくなった従業員(主に女性社員をイメージしていると思われる)が転居先でもキャリアを生かして継続して働けるようにするためのものだ。そこには女性経営者ならではの、社員とその生活を思う優しい感性がある。