政策

社説 賃貸住宅管理元年 長期計画修繕は1丁目1番地

 賃貸住宅管理適正化法施行を受けて迎えた今年、賃貸住宅管理業登録制度に基づく移行期限6月15日までに賃貸住宅管理業登録業者が出そろう。業法に則り、オーナーの賃貸経営と資産価値向上をサポートし、安全・安心な賃貸住宅をユーザーに提供することが使命となる。賃貸住宅に関わる課題は多岐にわたるが、中でも老朽化などによる事故やトラブルが断続的に発生し、死傷事故にまで発展している現状は看過できない。この未然防止は喫緊の課題で、その1丁目1番地が「長期計画修繕」となる。

 昨年、東京郊外のアパートで、施工不良により外階段が崩落し入居者が死亡する事故が発生した。老朽化や施工不良などによる事故やトラブルを防ぐには、長期修繕計画に基づく定期的な点検と修繕、平時の維持保全が不可欠だ。サブリースを中心とする賃貸住宅では新築時から長期メンテナンスプログラム(計画修繕)の実施が定着しているが、既存賃貸住宅は経年後にその運用を始めることはハードルが高い。オーナーが零細で自主管理の場合などは特に、意識の低さ、大規模修繕の資金不足、計画修繕を請け負う業者選定の難しさなどがその妨げとなっているためだ。そうした賃貸住宅が事故やトラブルの温床となっているのは明らかだ。

 こうした中、昨年末、外壁と屋根に限定して賃貸住宅の修繕積立金を経費扱いにできる「大規模修繕積立金損金算入制度」が認められたという朗報がもたらされた。引き続き適用部位の拡充が待たれるが、オーナーにとって、また管理業者にも長期計画修繕を導入する強力なインセンティブとなる。

 一方、近年、請負環境も整ってきている。既存賃貸の長期計画修繕を専門的に手掛ける業者が事業を拡大する傾向が見受けられる。売買契約の重要事項説明の一項目にある建物状況調査(インスペクション)を請け負う既存住宅状況調査技術者(インスペクター)を計画修繕の運用に組み入れていくことも大いに期待が持てる。

 1月21日から、オーナーへの啓発を目的に国土交通省補助事業「賃貸住宅の計画修繕推進セミナー」のオンライン配信が始まった(2月28日まで)。昨年も実施された同セミナーにはオーナー、管理業者など1500人超が参加し、関心の高まりがうかがえた。

 経年劣化が進む既存賃貸の急増が長期的に見込まれる中、計画修繕を実施している家主は21%(16年度時点調査)にとどまったものの、その家主、管理業者はそれぞれ家賃水準の維持、高い入居率、長期の住宅性能維持、物件の競争力アップといった計画修繕のメリットを実感していることが明らかになっている。賃貸住宅管理業登録業者をはじめ管理業者は、管理受託の分け隔てなく、未着手のオーナーに長期計画修繕の導入を促し、健全な賃貸経営と入居者の安全・安心の確保に全力を挙げてもらいたい。