昨年6月に賃貸住宅管理業法が全面施行された賃貸住宅市場。更に同年11月に開かれた自由民主党賃貸住宅対策議員連盟(ちんたい議連)の総会では、賃貸住宅の大規模修繕積立金の損金算入制度実現が報告され、反響を呼んだ。まさに賃貸住宅市場は今年、新たな時代を迎えようとしている。そこで、衆参議員296人が所属する同党最大規模のちんたい議連会長に再任された石破茂会長に、これからの賃貸住宅が果たすべき役割と、あるべき住宅政策の方向性について話を聞いた。(聞き手・井川弘子)
――ちんたい議連会長に再任された抱負を。
「賃貸住宅関係の皆様には、自民党が野党で苦しんでいた時代にもお支えいただいた。特に東日本大震災の発災時、早くも翌日には、みなし仮設を提供したいとの話をいただいたことが強く印象に残っている。与党に復帰した後も賃貸関係の皆様にはひとかたならぬ支援をいただいてきた。これからも皆様のご教導を賜り、ご要望にお応えしていきたい」
――かねてから賃貸関連団体から要望のあった賃貸住宅の大規模修繕積立金の損金算入制度が創設されることになった。
「業界の皆様のご要望を受けて、議連として関係省庁とやり取りをし、国交省(住宅局)などの担当部局が尽力してくれた。まずは屋根と外装の修繕工事を対象としてスタートする」
――水回りなど内装設備の工事費も含めるよう対象範囲の拡大要望が出されているが。
「なるべく早く実現するよう努力したい。物件オーナーは手元資金があまりない方も多いので、経費と認められれば賃貸住宅の質的レベルアップにつながる。オーナー側のメリットが入居者の幸せにもつながるような制度でなければ長続きはしない」
――コロナ禍では、自宅がシェルターのような役割を果たしたと思う。国民にとって住宅環境は最も身近で、かつ切実な問題ではないか。
「その通り。衣食住のうち、衣と食は多くの日本人がそれなりに満足できる水準に達したと思うが、住宅はそこまでいっていない。特に賃貸住宅はずっと仮住まいの位置付けだったこともあり、質的水準が欧米と比べても低い。国としても今後は賃貸物件の質の向上に対して支援をしていく必要がある」
――賃貸住宅は借り物という意識が強く、自由にリフォームもできない窮屈なイメージがある。
「これからは賃貸で一生暮らすという価値観を持った人たちも増えてくると思う。そのときにクギ1本打っては駄目、壁の色を変えては駄目というのが本当に賃貸のあるべき姿として正しいのかという議論はすべきだと思う。賃貸が終(つい)の住まいであるという価値観も住宅政策の中にあるべきではないか」
――日本でも所得格差が広がっている。賃貸住宅には住宅弱者向けの社会インフラとしての役割もあると思うが。
「当然だ。格差は拡大してきたと思う。かつての住宅双六で〝アガリ〟といわれていた庭付き戸建て住宅を望めない人も増えてきた。本来なら家賃を抑えた公営住宅がもっと必要だが、最近は逆に減少傾向にある。そこは見直していかなければならないと思う。人口減少、超高齢社会における住宅政策については総じて抜本的な改革が求められている」
「例えば、これまで住宅政策の根幹をなしていた持ち家取得促進政策への偏重を改め、賃貸住宅にもある程度の重点を移すという議論も必要だ。賃貸だろうと分譲だろうと、戸建てだろうと、公的インフラとしての位置付けと、それに対する支援があってしかるべきだと思う。みなし仮設などはその一つの取っ掛かりになるかもしれない。東日本大震災以降、被災して家がなくなったときに、業界団体を通じてみなし仮設を提供してくれている。被災という極限状況に限らず、平時であっても所得に応じて、それなりに環境が整備された良い住まいに住みたい、そういう人に良質な住宅を提供するための公的助成が賃貸においてもあるべきではないか」
――人口減少問題は〝静かなる有事〟と指摘されていたが。
「国家は、領土、アイデンティティを共有する国民、国を統治する仕組み――この3つで成り立っている。今、日本の人口は年に50万人も減っている。もう少し経つと年間100万人減る時代が来る。今のペースだと2100年には日本人は5200万人になると推計されている。国家が消えてなくなりつつあることにもっと危機感を持つべきだ」
「所得格差の問題もあるが、賃貸でも子育てしやすい環境が整っていないと子供を育てにくい国になってしまう。無理をせず、自分の所得にあったそれなりの賃貸住宅がいっぱいあり、そこでも子育てが伸び伸びとできる、そういう賃貸住宅市場を整備することも少子化問題解決の一助になると思う」
――危機感を持てない人が多いのはなぜか。
「それは目に見えないからだ。出生率が最も低いのが東京だが、今はそこに若い人が集まる。東京でも良質な住宅に若い子育て世帯が住めるようにすることと、地方の魅力を高めていくことが必要だ」