マンション・開発・経営

トップが語る(上) 松尾野村不動産社長 人に寄り添う精神大事に

 住宅事業を中心に成長をしてきた野村不動産。新型コロナで住まいに対する考え方が変わり、少子高齢化の中、今後の成長戦略をどう描いていくのか。今年4月に就任した野村不動産の松尾大作社長に聞いた。(聞き手=桑島良紀 写真=佐藤順真)

 ――改めて社長就任の抱負を。

 「4月に社長に就任したが、自分では驚いた人事だった。新型コロナで半年ほど外へ出歩く機会はあまりなかったが、考える時間は十分にあった。当社はこれまで住宅事業を中心に成長してきたが、(これからの成長を担う)大きなプロジェクトが見えてきたよいタイミングでバトンを渡してもらったと思っている。

 『芝浦一丁目プロジェクト』や『日本橋一丁目中地区』、中野サンプラザなどの『中野駅新北口駅前エリア拠点施設整備事業』といった大きな再開発プロジェクトがあり、特に『芝浦一丁目プロジェクト』は当社がメインになるものであり、ダイナミックな10年になると思っている。

 ただ、一方で、多様化が進む中では野村不動産が昔からベースとしている、細部にこだわって仕事をすることをなくさないでいくことを強く発信している。住宅事業本部長時代から『神は現場に宿る』という言葉を発しているが、お客様にこだわる、人に寄り添うという精神は大事にしていきたい」

 ――住宅市場の見通しと住宅事業の展開は?

 「コロナによってリモートワークが普及し、住宅が住むだけでなく、いかに快適に過ごせる空間になるかに変化した。特に、東京は市場が変化した。利便性重視で都心部の賃貸住宅に住んでいた人が、家である程度の仕事をするために広さが必要になり、東京から神奈川といった周辺に移転する需要が一気に出てきた。

 用地取得が難しくなり、マンション供給量が減った一方、これまで少しずつ価格が上がって様子見していた層のコロナで潜在していた需要が一気に出てきた。感覚的だが、購入層も若年化が進んだと感じている。当社は、都心も郊外も満遍なく住宅を供給しているが、コロナで住宅需要が多様化した流れは今後も変わらないと考えている。金利の低水準は、日本ではなかなか変わらないとみている。

 (与党により)住宅ローン減税の延長が示されたが、所得要件が厳しくなり、高額所得層にとっては立ち止まって考える人も一部にいるかもしれない。ただ、年収2000万円以下の世帯が圧倒的に多い。郊外での供給や、都心に準じる物件や都心物件は選別して供給していくことに変わりはない。多様化する需要に対応する商品のラインアップは持っている。

 地方中核都市の再開発も伸びている。とは言え、少子高齢化という流れがある中では、年間供給量の目安は4000~5000戸の間で、事業性を確保しながら進めていく」

 ――オフィス事業について。

 「再開発プロジェクトもあるが、基本は(中規模の)PMOを中心にやっていくことに変化はない。そこに、サービスオフィスのH1O、シェアオフィスのH1Tを絡めていく。成長企業を取り込みながら、PMO事業を成長させる。PMO、H1O、H1Tの3つをうまく使いながら、事業ポートフォリオを回していく。点であるPMO、H1O、H1TをDXで結んで、面のようにして(テナントにとって)使い勝手がよいサービスを提供していきたい」

(次号に続く)