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地方創生 試される本気度 (3)統合型リゾート(IR) 地元経済の起爆剤になるか 不動産賃貸需要に恩恵?

 地域活性に向けて資金をどのように呼び込むか。地元の観光資源や遊休施設の有効利用など官民で模索を続ける中で、政府は観光先進国としてカジノを含む統合型リゾート(IR)を重要な取り組みと位置付けている。しかし、カジノは「いらない」「地元活性の起爆剤だ」などの賛否両論が渦巻き、地元住民と地元経済界との温度差が広がっている。現状を整理してみた。

 政府はIR実施法に基づく手続きで10月からIR施設の誘致を目指す自治体の整備計画の申請受け付けを始めた。22年4月28日が期限となり、最大で3カ所を選定予定だ。大阪府・大阪市、和歌山県、長崎県が申請の意向だ。

 提案ベースの事業規模はそれぞれ異なる。和歌山県は、カナダのクレアベストに決定した。マカオを拠点とするもう1社のサンシティグループがコロナ禍を受けて公募を辞退した。このことでクレアベストが6月2日に優先権者となり、県と県公安委員会の協議を経て決まった。大阪府・市も米国のMGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同チームを9月末に選定した。

 誘致する自治体は多くの観光客を呼び込み、地域への経済効果は大きいと期待。クレアスベストの提案計画によると、和歌山県の事業規模は初期投資額として4700億円を投じて27年秋ごろの開業を予定する。人工島、和歌山マリーナシティ(和歌山市)へ誘致する。経済波及効果は年間で約2600億円と見込み、約1.4万人の雇用創出を想定。1300万人程度の来場者数を見込む。

 大阪湾の人工島、夢洲(ゆめしま)に誘致したい大阪府と市は、大阪圏の底上げにつなげていきたい考えだ。こちらも20年代後半の開業を計画し、経済波及効果は年間で約7600億円以上を見込んでいる。初期投資額として1兆800億円が投じられる計画だ。来場者数は2050万人を想定している。

 長崎県ではハウステンボス(佐世保市)の隣接地に31ヘクタールのIR施設を整備する計画。豪州の国営企業関連のグループ「カジノオーストリアインターナショナルジャパン」(CAIJ)を8月末に選定している。

 東洋と西洋の文化の融合がコンセプトだ。九州・長崎の歴史文化を継承して世界都市を目指すという。開発総事業費は3500億円を想定し、来訪者数を年間840万人と見積もる。経済波及効果は運営で年間3200億~4200億円を見込む。雇用創出効果は年間2.8万人以上を想定している。

 こうした誘致に積極的な自治体もあれば、住民の強い反発を受けて見送ったり、様子見の自治体も多い。カジノ誘致で地域の活性と税収の増加につながるメリットと賭博場の開設により治安悪化に懸念が及ぶ地元住民。誘致を進めていた横浜市は、今年8月の市長選で反対派が当選して誘致を撤回した。訪日客など国内外の観光客を当て込んだが、新型コロナにより収益が悪化した海外のカジノ各社は日本市場参入からの撤退表明も相次いだ。

 住宅・不動産各社としてはIR施設の開発に伴いその周辺に新たな事業好機がないか水面下で詮索するが、地域住民の反発が強いだけに表立って動きが取れないのが実情だ。

 地元の反応としては、「夢洲は立地的に分譲事業が難しそうだが、IR施設で働くワーカーの賃貸需要が増えて通勤圏となる範囲で空室率の低下に効果がありそうだ。訪日客需要が戻れば民泊などで空き家を活用できたりする。一方で撤退する自治体や事業者が出ている中で先が読みづらい」(大阪市内の仲介業者)としている。IR誘致の可能性を探る状況が続きそうだ。