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トーセイ・山口誠一郎社長に聞く 山口誠一郎 社長 「既存事業とのシナジー重視」 M&Aで買取再販事業を拡大

 トーセイは9月末、中古区分マンションの買取再販を中核事業とするアイ・カンパニーおよびその子会社のプリンセスホールディングスなど4社(併せてプリンセスグループと総称)の全株式を取得、10月に新体制をスタートした。同社として、約6年ぶりに事業会社単位で行った今回のM&Aについて、山口誠一郎社長にその狙いや今後の課題などを聞いた。(聞き手・佐藤順真)

 トーセイグループでは従来、収益マンションを1棟単位で取得してリノベーション、販売する事業は行っていたものの、区分単位での買取再販の実績はなかった。他方、プリンセスグループは都心エリアを対象に、中古区分マンションの買取リノベ再販および仲介事業を手掛けており、直近では年間約76億円の売上高を上げていた。

ニーズの高まりに対応

 そこでトーセイは、プリンセスグループを傘下に置くことにより、新規事業領域へ進出し、主力である不動産流動化事業の強化を図った。山口社長は「近年は都内新築マンションの高騰もあり、中古マンションのニーズが高まっているものの、(区分単位での買取再販は)当社グループがカバーしていない分野だった。そこでポートフォリオの拡大の意味でもM&Aを実施した」と背景を語る。

 続けて、「1棟マンションをはじめ、既存不動産の買取再販という事業は当社の得意分野であり、そうした既存事業とのシナジーが見込めることも大きな理由。スケールメリットによるコストダウンはもちろん、当社の持つクラウドファンディング資金調達ノウハウや、BtoCにおけるデジタル新技術導入の試みの活用といった面でもシナジーが期待できる」と強調。新領域への参入だけでなく、相乗効果による新規・既存双方の事業の強化を重視する。

一体感醸成へ対話を重視

 半面、歴史や文化の異なる企業とのシナジーを発揮するためには、ビジョンや考え方の共有が課題となる。また投資判断の可否など、決裁の判断基準は企業によって異なりやすく、統一が難しい。更に、上場・非上場によりコンプライアンスやガバナンスへの意識にも温度差が生じやすい点も無視できない。

 これらの課題に対し、山口社長は「やはり対話、これに尽きる」と話す。トーセイは「M&A・グループ戦略部」という専門部署も設けており、以前のM&Aの経験を生かした綿密な打ち合わせや研修などを通じて、プリンセスG各社とのビジョンの共有を促進している。しかし「すぐに考え方や業務の進め方を変えるのは難しい。まずは8割方これまでのスタイルを継続して構わないので、互いに尊重し合いながら、徐々に一体的に事業を進めていきたい」(山口社長)という構えだ。

 トーセイグループとしての一体化を進めながら、今後は区分買取再販事業のバリエーションを増やし、より広いニーズへの対応を図る。加えて、「中古戸建ての買取再販事業への進出もビジョンとしてはある」(山口社長)とし、更なる事業領域拡大にも意欲を見せる。またトーセイでは常に有望なM&A案件を注視しており、山口社長は「事業承継でも新領域でも、機会があれば引き続き取り組んでいく」と方針を語った。