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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇17 「移動」の思想 コロナ禍を打破する新事業 BESSの〝走るログ小屋〟

 アールシーコア(二木浩三社長)はこのほど、ログ小屋「イマーゴ」の新商品〝走るログ小屋〟を発表した。車輪付きでどこにでも車でけん引していくことができる。ワーケーションや二地域居住など移動への関心が高まる中、移動先を自由に選ぶ究極の〝居場所造り〟が実現する。気分で変えるテレワーク拠点、リュックの代わりに小屋ごと背負っての週末レジャー、小屋と共に旅する人生…。固定されていたハードを移動自由というソフトに変えての新たな楽しみ方が登場する。

 〝走るログ小屋〟はこれまで庭先で楽しんでいた趣味的空間を小屋ごと好きな場所に運んで、飛び切りぜいたくな時間を楽しもうという発想だ。例えば、釣り好きの人なら、これまでは買い求めた高級道具一式を並べたり、自慢の魚拓を眺めて楽しんでいたわけだが、今度はその部屋ごと海や川に出掛けていくことができる。そこでは、これまで叶わなかった〝自分流〟を極めた釣りを楽しむことができそうである。

 9月29日に開いたプレス発表会で二木浩三社長はこう語った。「キャンピングカーは車に家を付けたが、我々は小屋に車を付けた。この差は大きい。つまり、〝楽しい暮らし〟に車を付けたということだ」。

 そしてこうも強調した。「コロナ禍で世の中全体にストレスがたまっている今だからこそ、BESS(同社ブランド)にしかできない面白いことをやりたかった」。「楽しくて面白い未来をつくっていくのが我が社の使命。閉塞感を打破するようなとっぴな発想は大バカでなければ思いつかない。大バカとは、それが何であれ本気で取り組む人間のことである」

 いずれはイマーゴに車輪ではなく羽を付ける日がやってくるかもしれないとさえ二木社長は語る。そういえば同社は創業期に小型飛行機を売っていたこともあるとか。面白いことや楽しい暮らしをとことん追求する姿勢はBESSの変わらぬ伝統である。

誰もが変人に

 人工物に覆われた都会生活を続けていると人間は自然に対する感性が衰え、想像力が鈍化し、人生を楽しむ素養さえなくしていく。その結果、深い意味での幸福感に浸ることなく人生を消費していく。そうした予感と不安が昨今、現代人の自然豊かな環境への憧れ、田舎暮らしなどへの関心を高めているのではないか。しかし、多くの人は現実のしがらみや経済的事情などから、それを実践に移すことができずにいる。もっとも〝変わる〟ことの難しさを痛感しながら生きていくのが人生と言えなくもない。

 とはいえ、人間は本当に変わることができないのだろうか。だとしたら人類の歴史を動かしているものは何か。人類の歴史が個々の人間の人生の積み重ねだとすれば、そして人類が進歩しているのだとすれば人間はどこかで思いを変え、新たな一歩を踏み出しているはずである。

 二木社長は大バカだけが突破口を開くことができると語ったが、筆者は時機が熟せば誰もが〝変人〟になれる日が来るのだと信じている。

 そのためにも、日常の閉塞感から脱却する術の一つとして移動という自由を身に付ける習慣が必要なのだ。移動する自由こそ、自分を見つめるチャンスを与えてくれる。

〝自分流〟が人気

 「イマーゴ」を公道で牽引するためには普通運転免許とは別に第一種牽引免許が必要になる。その代わり、車輪付きイマーゴは建築物ではなく車両扱いとなるため建築基準法は適用されず、狭い庭でも置くことができるし、街中の空き地にショップとして活用することもできる。

 販売目標は年間1000台。ちなみに、従来の固定式「イマーゴ」は発売以来5年間で累計550台を突破している。しかも直近の21年4~8月は前年比2.2倍の売れ行きだ。可動式も固定型も、趣味や暮らしを自分流に楽しみたいという需要の好調さを物語っている。