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東京解読、需要が語る 購買力は格差鮮明に 価格が実体を裏付け 結局は都心回帰 〝コロナ禍、新常識〟を追う 株高が演出する分譲マンション市況 住宅編

 住む場所や住む家の種類にかかわらず価値観は絶えず変わり続けてきたが、足元の人口動態の変化はその住まい方を劇的に変えようとしている。少子高齢社会で人口が本格的な減少に向かっており、判で押したような街づくり、住まいづくりが転換期を迎えている。そうした中で新型コロナウイルスの感染爆発に見舞われた。新たな生活様式と働き方が求められ、在宅勤務はその象徴だ。通勤は毎日必要ないので都会に住まなくてもいい、テレワークスペースが必要なので広い間取りを割安な地方・郊外に……。コロナ禍で新たな価値観が生まれたとされる。その〝新常識〟の展望をシリーズで探る。

 住宅供給は過剰になっている。人の寿命よりも建物の寿命が長い住宅も増え、土地を一生懸命に守ってきた考え方から土地を有効に活用する方法を模索する時代になった。都会のマンションにすべてを求めず、地方にもう一つ部屋を持つという二地域居住・多地域居住が注目を浴びている。そこで空き家をリノベーションして使い勝手よく利用するのは一つのアイデアだ。

 公共交通網とテクノロジーの発達によって新たな風景が見え始めた。働き方改革の中で全員が箱に向かって通勤していくことが続くのか。コロナ禍で多くの人がこのような思考にもなっている。

 将来的には都会でも人口が減り始めて東京でも切り捨てられる地域が出てくるとの指摘はあったが、コロナ禍がそれを早めているとの印象を持った人は多いはずだ。

 総務省が9月28日に発表した8月の住民基本台帳人口移動報告によれば、東京都からの転出者が転入者を3363人上回って4カ月連続で転出超過となった。じわり人口がにじみ出る。

 地方創生会議に出席経験のある識者の一人は、「変化に合わせた住宅の選択肢が十分にない」と指摘する。相変わらずこれまでの流れで都市開発が続くことに疑問を突き付ける専門家は少なくない。

 コロナ禍で所得格差も一層拡大した。緊急事態宣言が断続的に発令され、休業・時短要請や外出自粛での人流抑制により飲食・サービス、観光、宿泊といった業界の雇用環境と所得環境は悪化した。住宅ローンの返済が滞って自宅を手放さざるを得ない、安い家賃の物件に住み替えざるを得ない、というケースは珍しくない。

 一方で住宅の売り出し価格は新築・中古ともに上がり続けている。不動産経済研究所によれば、首都圏分譲マンションの新築価格は直近8月で平均7452万円、東京23区は1億円を超える。

 中古マンションも高嶺の花だ。東京カンテイの調べによると、21年上半期(1~6月)の相場価格は、首都圏で1坪当たり平均263万円となり、東京都は317万円だった。東京23区は338万円と13年以降、上昇傾向が続いている。都心中古は過去5年間で100万円もアップした。

 東京カンテイの高橋雅之・主任研究員は、「東京のマンション価格は高いが、これが下落に転じる要素は見当たらない。株高を背景にそこで増やした金融資産を不動産に組み換える流れというのはしかるべき流れではないか」と話す。貨幣価値が下がっている中で物件価格が上がっている状況は資産の代表である不動産にマネーが集まりやすい。

 懸念材料をあえて挙げてもらうと、「衆議院選挙。十中八九、現行の自民・公明の連立政権が維持されると思うが、仮に下野すれば先行きが読めず株が売られる。株高がマンション価格を支えていただけにネガティブな要素になるだろう」と指摘する。

 都心志向はマンションにとどまらない。戸建て住宅は都区部のマンション価格に比べて割安感と仕事場を確保しやすいことで評価され消費者から選ばれる。東京23区内で新築戸建てを供給するオープンハウス。主力の戸建て関連事業を見ると、供給戸数と契約単価、利益率が改善傾向をたどっている。21年9月期は前年比1割強を積み上げて5700戸が見込まれ、粗利益率は前期の16.5%から20%の水準に迫る見通し。同社は9月17日に今期業績予想を引き上げ本業のもうけを示す営業利益を1000億円とした。23年9月期を最終年度とする中期経営計画1100億円の利益を前倒し達成しそうだ。

 コロナ禍で地方の需要が活況になるとの見方とは裏腹に都会が選ばれる。

 さいたま市内に居住する夫婦(40代)は、「高校受験を来年控えている子どもが都立を受けたいと言っているので、約16年前に4000万円台で購入した新築建て売りをほぼ同額で売却でき、住宅ローンの残債を払った残りを頭金に実家が近い江東区内に中古マンションを購入しました」と話す。

 前述の高橋氏は、「結局は職住近接、都心、駅近への回帰となるだろう」と見る。地方・郊外ニーズが盛り上がると過剰に見立てたり、バイアスのかかった観測をするとミスリードにつながりかねないと指摘する。複数の専門家は東京離れは東日本大震災やリーマン・ショックの後も似たような現象が起こったことを踏まえて市場分析をする必要性があると訴えている。