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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇12 今こそ「共存の誇り」 利他なくして、利己もなし 業界という枠も超え

 自宅のリースバックを利用する人が増えてきた。テレビコマーシャルも頻繁に見るようになった。センチュリー21のCMはこうだ。高齢の男性が登場し、アルバムを見返しながらこうつぶやく。「今すぐどうしても資金が必要になった。私はこの家を売ることに決めた。でも私はこの家が好きだ。リースバックなら家を売った後もずっと住み続けられる。幸せはここにある」

 〝幸せはここにある〟という言葉が自宅リースバックの本質を語っている。高齢者の幸せと、家を買い取る事業者の利益を共存させた画期的ビジネスモデルといえるだろう。

 もっとも、これまでも取引相手双方の利益を共存させる「ウイン・ウイン」とか「三方よし」(買い手よし、売り手よし、世間よし)という思想は喧伝されてきた。高齢者を対象にした「自宅リースバック」は、そうした「自分だけでなく、他者の利益をも考える」有意性を見事に証明したビジネスということではないか。

利他は偽善?

 「利他の心」というと、そこに偽善を感じるという人もいるが、成長社会ならいざ知らず、成熟社会では利他なくして利己はなく、利己と利他は共存の道しかないということである。

 アールーシーコア(BESS)は新規事業として「梺ぐらし」をする住人に6つのルールを課す「梺六範」を発表したが、その一つに「独り占めより、共存の誇り」という範がある。起草した二木浩三社長はこう説明する。「利他性こそが心地よい社会性を育む。格差は小さいほうがいいし、格差が大きくなり過ぎると争いの元になる」

 現代社会は共存の思想に誇りをもって、利他性の心地よさを目指すことが様々な閉塞的事態を打開する鍵となるのではないか。不動産市場ではこれまで、売り手の利益は買い手の損、借り手を利すれば貸し手が損する」というのが通俗的理解だったが、そのような対立思考はこれからの社会に何も生み出さない。

日管協の思い

 日本賃貸住宅管理協会(日管協)のロゴマーク(写真参照)にもそうした思想が示されている。借主、貸主、管理業者と関連業者、更に社会の4者を幸福のシンボルであるクローバーの葉に見立て一筆書きで繋げている。つまり、4者が共存関係にあるという思いを表現したものだ。

 ただ、現実はどうか。日管協東京都支部が8月24日に開いた夏季勉強会で基調講演した『家主と地主』編集長の永井ゆかり氏はこう語った。  「オーナーが管理会社に期待していることの一つは、自分たちのことだけではなく、もっと入居者のことを考えて欲しいということです」

 「オーナーは、どんな入居者が住んでいるのか、困りごとは何かなどを管理会社にきちんと把握してもらい、その情報を共有したがっている。それがなければ効果的な入居促進策を打つことはできないということを、危機感を抱き始めたオーナーほど強く感じていますから」

 4者をつなぐ要ともいうべき管理会社の意識改革は残念ながら、まだ途上のようだ。

 コロナの感染拡大や50年に1度と言われるような大規模災害が毎年のように起こる今日、人々の生活、将来に対する不安が増している。その生活の基盤となる住宅を提供する不動産業界が、今こそ担うべき社会的役割は何なのか。それは日管協のロゴマークが示す〝共存の思想〟を仕事上で実践していくことはもちろん、その思想を業界の枠を超えて、社会全体に広めていくことではないだろうか。

 なぜなら今、日本社会が抱える課題(人口減少、少子高齢化、年金破綻懸念、介護人材不足、所得格差拡大など)のすべてが不動産業界に深刻な影響をもたらすものだが、どれひとつ不動産業界だけで解決できるものはないからである。日本を救うため業界同士にも共存の思想が必要なのである。このような構図は今や地球規模で生じている。