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賃貸住宅管理業法が全面施行 業者登録制度を開始

 「賃貸住宅管理業法」が6月15日、全面施行を迎える。20年12月15日に先立って施行された「サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正化にかかる措置」に続き、賃貸管理業者の登録制度が開始する。業務管理者の資格要件に必要な各講習への申し込みも進む。賃貸管理〝標準化〟時代幕開けの機運が高まる。(佐々木淳)

適正化へ高まる機運、問われる質

 20年6月12日に成立した同法は、サブリース規制および登録制度の二本柱からなる。同法施行の意義について全日本不動産協会(全日)は「賃貸管理業界の社会的地位や従事者の社会的信頼度が高まる。家主や入居者にとって適正管理を行う良質な業者の判断材料になる」と評価。6月9日、自民党ちんたい議連総会に出席した塩見紀昭日本賃貸住宅管理協会(日管協)会長は「完全施行に向けて緊張感を持って対応を進めている。既にサブリースを使って医療従事者へ賃貸住宅を提供する好例もある」と語った。

 今回始まる登録制度は、賃貸住宅のオーナーから委託を受け、賃貸住宅の維持保全、賃貸住宅の家賃等の金銭管理、入居者対応等を行う事業者で、かつ管理戸数200戸以上の賃貸管理事業者は国土交通大臣の登録が義務付けられる。登録を受けた事業者が行為規制に反した場合、業務停止等の監督処分や罰則の対象となるが、法に沿ったルールの遵守がオーナーとのトラブルの未然防止等につながることから国では200戸未満の事業者の登録も推奨する。

 登録事業者は、(1)事務所ごとに賃貸住宅管理の知識・経験等を有する「業務管理者」の配置、(2)管理受託契約締結前の重要事項説明、(3)財産の分別管理、(4)定期報告――の対応が求められる。(1)の業務管理者の登録要件は管理義務に関する2年以上の実務経験を有し、「22年6月までに賃貸不動産経営管理士登録を受け、移行講習が修了した者」「宅建士で指定講習を修了した者」、「21年秋以降に実施予定の登録試験に合格し2年以上の実務経験がある者」だ。

「講習」申し込みは順調

 講習は、国交大臣から実施機関として登録を受けた賃貸不動産経営管理士協議会が関係団体と協力。宅建士向けの指定講習は、ハトマーク支援機構および全国不動産協会(TRA)が実施する。5月末時点の申込状況は同支援機構が約2000件、TRAが約300件。また日管協が現在の賃貸不動産経営管理士有資格者に実施する移行講習の申込数は2万2900件を数えた。6月9日のちんたい議連総会で青木由行不動産・建設経済局長は「同法の肝は業務管理者の配置。資格者となるべき講習も順調に進んでいる」と報告。賃貸管理業が地域社会に寄与するための取り組みを一層推進するとした。

周知と研さんの徹底を

 登録制度の先に何を見据えるか。4万戸以上を管理するLIXILリアルティでは、社員の資格取得やオーナーの資産価値向上の取り組みを強化。「賃貸管理の質は情報収集力と提案力」とし、同社が運営するフランチャイズ「ERA」の加盟店にもオーナーイベントを開くなどオーナーとの関係性構築を支える。

 東京都大田区を中心に1400室以上を管理するホワイトホームズは、08年に初めて社員が賃貸不動産経営管理士を取得。自社の賃貸管理の質を磨くことでオーナーとの信頼関係を構築してきた。業務管理者についても複数人が対応できるよう体制を強化中。同法の浸透には「消費者が安心して取引できることの周知が必要」とし、財産の分別管理についても従来の顧客に新たな振込先を指定するのは難しいという課題を指摘する。

 会員数6350社を誇る全国賃貸不動産管理業協会(全宅管理)では登録義務がある200戸以上の事業者は6割を占める。会員の大半は中小事業者であり、業務上支障を来す懸念から200戸未満の会員に強制はできないが、「登録自体は社会的信用性など意義があるため、自発的に登録を検討してもらうよう環境整備に努める」という。

 消費者の信頼に応える人材育成も課題だ。全宅管理と日管協では20年度から共同人材育成等に向けた体制構築を開始した。コロナ下では在宅時間の増加に伴う入居者間の騒音トラブルなどが注目を集めた。一方、物件を案内する仲介事業者も含め、人が顧客対応をするという基本に変わりはない。全宅管理では、その人、その物件、その地域で何が必要かを絶えず考えていく『「住まう」に、寄りそう。』の具現化が必要であり、その先に管理報酬があると見る。

 全日では課題の一つに、業務管理者登録に必要な実務経験2年に満たない者への迅速な対応を指摘。専属研究機関の「全日みらい研究所」では同法施行に伴う宅建業者の業務への影響について調査・分析を進める予定だという。

 いずれにせよ標準化に向けた最初の一歩の意義は深い。賃貸管理の質の高みへ、法施行後も研さんが求められる。

自民・ちんたい議連総会 家主支援措置など決議

 自民党賃貸住宅対策議員連盟(ちんたい議連、石破茂会長=写真)の21年度総会が6月9日、自民党本部で開かれ、同議連所属議員をはじめ、関係省庁、賃貸関連団体が参加した。賃貸住宅の維持管理等を推進するための家主向け支援措置など重点要望を決議した。

 石破会長は、自民党国会議員の約9割を占める同議連の役割の大きさを強調。公営住宅および民間賃貸入居者の6割は平均所得を下回っている点に留意が必要とした上で、「コロナ禍でおうち時間が長くなっている入居者にどうやって住まい環境を整えていくか。オーナーが正当な仕事が営めるように議連として取り組んでいくことが必要」と述べた。

 関連団体の三好修全国賃貸住宅経営者協会連合会会長が60歳以上の単身入居者の死亡時に残置物を処分する方法を記したハンドブック等を紹介し、「先般、国からモデル契約条項が公表された。全国の家主へ周知することで高齢者入居の拡充につながる」と語った。

 関係省庁からはテナント家賃の支払い支援への対応状況などが報告された。国土交通省の不動産・建設経済局の青木由行局長は賃貸住宅管理業法の完全施行を契機に賃貸管理業の存在感を高めていく姿勢を示したほか、今後の課題として「不動産ID」の整備を挙げ、おとり広告の排除などコンプライアンス向上の可能性を示唆した。

 住宅局の和田信貴局長は残置物処理に関する周知・普及に取り組むとした。