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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇1 IT化進む業界 耶馬台コーポレーション社長、「全国貸地貸家協会新聞」編集長 宮地忠継氏に聞く

 不動産業界のことは不動産業者に聞くのが筋である。しかし今は変革の時。不動産業暦が長いほど発想転換が難しい。そこで、96年衆議院選挙に立候補し小泉純一郎氏と争うも次点で落選。その後、東京・中野で不動産会社を設立。現在は都宅協中野支部役員だが全国貸地貸家協会新聞編集長、日本不動産ジャーナリスト会議会員でもある異形の人、宮地忠継氏に〝業界の今〟を聞いた。

 ――コロナによる中小(または零細)不動産業者への影響は。

 コロナそのものというより、コロナによって多くの人がますますITを使うようになったことが大きい。

 これによりイタンジ、スペースリー、リーウエイズなどの不動産テック企業が伸びている。現にイタンジは売上大規模拡大を言っている。  中小不動産業者はまだITを無視している、というか無視したいという態度を取っている。その理由は、従業員が今までの〝人対人〟の取引に慣れているので簡単にはITに移行できないからだ。

 ――〝人対人〟の取引は悪くないのでは。

 不動産業の場合、経営者は現実的には従業員を働かせ、その上がりで利益を得ている非常に原始的な産業なのだ。従業員を働かせてなんぼだから、簡単にはITには移れない。

あらゆる参入者

 ――IT化ができないと生産性が上がらないのでは。

 今後IT化した不動産業者と、そうでないところとの差はどんどん大きくなるだろう。かつて、スーパーやコンビニが出てきたときに街の酒店など個人商店が新規進出者にどんどん取って替われていったように、業界は今後大きく変わる。コロナがそれを加速させるだろう。

 ――具体的には誰が取って替わるというのか。

 不動産業界の超大手は(IT化を)とことんやるだろう。必ず自社で優秀なソフトを開発し、場合によっては市場を席捲しようとするだろう。地元の中小も、社長が優秀ならば必ず参入してくる。

 また、こういう勝負になると企業の規模は関係ないから、新規参入はいくらでもありうる。システム開発というのは、それほど金がかかる世界ではない。そういう訳で新規参入者はいたるところにいると思ったほうがいい。ボーとしているものが消え去るのみだ。

 ――危機感をもった業者らが所属業界団体に何かを要望するような動きは。

 小生は全宅連都宅協中野支部の役員をしているが、コロナ関連の特別な要望は特に聞いていない。

 ――危機感が足りないと。

 本来ならば危機感が高まるはずだが、先にも述べたように、IT化を正面から見据えていない。だから危機感が生まれない。危機感をもった業者は生き残るだろう。

 ――中小業者の生き残り策としては新たなビジネスへの取り組みも欠かせない。宮地さんは家族信託にも造詣が深いが。

 家族信託は、小生もそれなりに研究したつもりだが、非常に複雑だし、また信託契約は期間が長いので、将来どのような問題が起こり得るかについて、まだ人々が気づいていない点がある。

 現に弁護士や司法書士がそういうことを言っていて、一部の人は危ながって近づかない。だから不動産業者には難しいのでは。現在、三井住友信託では家族信託が伸びていると聞いているが、それは三井の看板があるからだ。一般の人は、三井の看板があれば将来何かあった時にはねじ込めばいいと思っている。こういうところと街の業者ではそもそも土台が違う。

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 【聞き手からひと言】 

 宮地氏は〝実践の人〟。なんでも自分で体験してみようという人で、衆議院選挙にも挑戦した。家族信託も自分で実践。一方で学究肌のところもあって、日本の土地の歴史にも詳しい。こういう人が不動産業界とジャーナリズムの世界にいることは業界の未来(彼方の空)を思うと心強い。