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先進の不動産DX 軽作業を積み重ね大きな効果

 もはや、この言葉を聞かない日はない。DX(デジタルトランスフォーメーション)は、今後の不動産業界・企業の発展の鍵を握る。しかし、導入部の最新ツールの活用で、いったい何から始めればよいのだろうか。悩みの声は少なくない。デジタル化を生かすこと。それは、社内外の役割分担で「分業化」し、その連携を円滑にする。比較的に簡易だが、細かな仕事で数が多く、多忙で手が回らない「軽作業」の場面で活用できる。実は、それらを軽んじないで気を配れば、大きな効果を得られることが分かる。働き方を変え、物件価値を高め、地域の活性化にもつながる。(坂元浩二)

アウトソーシングで効率化

 原状回復や修繕、清掃などの現地対応は、不動産業務で欠かせない。不動産テックのサービスブランド「GMO賃貸DX」を展開するGMOReTech(東京都渋谷区)は今秋に、「GMO賃貸DX業者さんアプリ」をリリースする。最新技術により、修繕などの賃貸運営関連業者(業者さん)と不動産賃貸管理会社を容易につないでくれる。

連携を円滑に

 これは、スマートフォンやウェブ上で簡単に操作ができる。受発注業務の書類のやり取りや、情報連携をデジタルで実現する。「オーナー、入居者向けの2つのアプリを提供しており、〝業者さんアプリ〟もそろえれば、より一層のコミュニケーションの円滑化をかなえる。賃貸運営をもっと楽にする」(GMOReTech代表の鈴木明人氏)。

 一方、プロに頼むほどでもない。だが、日々の業務に追われ、自社の社員では行く時間がない。そうした業務が「物件撮影」ではないだろうか。店舗や自宅でも現地にいるかのように内見できるVR(仮想現実)技術を活用したサービス「VR内見®」を提供するナーブ(東京都港区)は、新たなサービスを始めた。

VR撮影を代行

 ナーブは、サイト「ご近所ワーク」を運営するビースタイル ギグワークス(東京都新宿区)と4月に提携。全国1万6000人超の物件近くに住む「ご近所ワーカー」が360度カメラでVR撮影を代行するサービスを提供している。スタンダードプランでは1物件で20分、ワーカー報酬900円で依頼できる。

独自のアプリで

 気になる、その「品質」はどうか。ナーブが独自開発した撮影アプリで誰でも簡単、効率的に、一定品質の高画質VR画像を撮影できる。優れた撮影品質は、ナーブのVRサービスが評価されている理由だ。不動産会社は、提出された撮影画像が品質に合えば、管理画面の承認ボタンを押すだけで納品が完了する。

 現在のコロナ禍で非対面の需要が増えた。「VR内見®」は従来の賃貸から売買の領域にも、活用のシーンが広がっている。より急ぎの大切な業務に追われているために、撮影をアルバイトに頼めば、逆にその管理で負担が増える。業務を効率化できない。それら課題の声に応えた。

 特に繁忙期は対応できずに、撮影すべき物件が積み増す。撮影を低コストで外注化できれば、時間の使い方を効率化し、もっと創造的な業務に集中できる。オーナーへの提案といった「顧客の気持ちを汲む、真意をつかむなど、より密接なコミュニケーション力の必要な業務に注力できる。次は、来店者アンケートなどの受付業務の代行サービスも始める。不動産業務の中で手間になりがちな業務の効率化や、働き方改革を支援していきたい」(ナーブ代表の多田英起氏)と話している。

物件の魅力を伝える 地域のまちづくりにも

 ポストの下に、大量のチラシが散乱する。植栽は伸び放題。これでは物件の魅力が減退する。この課題感に、Rsmile(東京都中央区)は、ワークシェアサービス『COSOJI』(こそーじ)の提供を1月に始めた。物件オーナー、不動産会社がアパートやマンションの清掃などの軽作業を発注し、地域の住民が担う。

 スマートフォン1つで、手早く簡単に発注手続きができる。現地まで行く移動コストや時間、手間をなくす。仕事が完了すれば、写真付きの報告をスマートフォンでリアルタイムに共有される。従来の紙書類での報告書の郵送を待っている必要がない。

 地域住民は、ライフスタイルに合わせ、近所で好きな時に仕事ができる。清掃や草刈りなどの発注内容や規模にもよるが、1500円程度から仕事を受ける。口コミで広がり、今や全国3000人以上の「クルー」が活躍している。清掃というと高齢者が多いのかと思えば、そうではない。男女比半々の30代や40代が中心で、「お掃除好き」な主婦や自営業、会社員がほとんどだという。今般の状況で在宅時間が伸び、「運動代わり」に働くといった人が多い。

空き家の管理も

 「自身も以前の職場の不動産会社で経験したが、清掃の行き届いていない物件が意外に多い。もしも、近くに住む人に依頼できれば、業務を効率化できるのでは」(Rsmile代表の富治林希宇氏)と考えたのが、サービス開発のきっかけだ。3月には、「空き家管理」のサービスも始めた。目視点検やゴミ拾い、換気・通水を地域住民が担う。

 そこには〝スキマ時間〟を単に有効活用するという発想があるのではない。仕事を担う人たちは、現場目線の「提案制度」で、住みよい環境となるよう改善点の細かな〝気付き〟を提供する。それらの提案や仕事の姿を「グッドポイント」とし、全員で共有して次の改善に生かす。頑張った人が適正に評価され、報われるよう、働くモチベーションを維持向上させている。

大切な入り口を

 今般の〝巣ごもり〟状況に、不動産情報サイトの閲覧数が増えている。臨場感のあるVR画像の掲載が少ない、そもそもないのでは、住まい探しの大切な入り口を閉ざしかねない。VRサービスは、「物件の魅力を伝える効果的な手段となる。低コストで大きな効果を得られる。物件撮影の外注化も、費用対効果に優れる」(ナーブの多田代表)。清掃は、「少しの改善で美観を保ち、すてきな物件によみがえる。地域の人たちがまちに主体的に取り組むきっかけになる。一つの建物から、快適できれいな街並みへ、まちづくりや地域の活性化にも発展する可能性を秘めている」(Rsmileの富治林代表)。

たかが、されど

 多大な資金の投入で室内や外装をリフォームしなくとも物件の魅力、価値を維持向上できる。その軽作業が必要で重要なのは分かっていても、手が回らない。その結果、物件の魅力が伝わらない。成約率が低調で、空室なままに頭を抱え、悪循環となる。いかに内見数を増やし、入居者を決め、住み続けてもらい、オーナーの満足を高めるのか。その「たかが」ではあるが「されど」の業務に、どう対応するかなのではないだろうか。