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ニューノーマル対応やDX化が加速 業界ゆさぶる〝行動変容〟 明暗分かれたコロナ禍1年

 20年4月7日、新型コロナウイルス感染拡大を防止するために、政府による初の緊急事態宣言が発令された。街から人が消え、インバウンド需要や国内旅行需要は消滅。特にホテル、飲食店、商業施設は苦境に立たされた。あれから1年が経過した。新型コロナの収束はいまだに見えていないが、住宅販売やオフィス需要は底堅く、物流施設は活況に沸く。こうした中、住宅・不動産企業に与えた影響を振り返り、ポストコロナを見据えた動きを探った。

リート、住宅受注は回復傾向

 まずは、この1年間の住宅・不動産市況を俯瞰(ふかん)する。コロナ禍以前の高値が2200台だった東証REIT指数は回復傾向にある。同指数は20年2月半ばから下落し、同3月19日には1145.53にまで下落した。同11月~12月ごろから回復基調に乗り、21年3月26日には終値で1年ぶりの2000台を記録した。

 セクターごとでは物流が好調で、景気に左右されにくい住宅も安定的な動きを見せる。時価総額が最も大きいオフィスの本格的な回復が待たれる。回復度はコロナ禍以前の80%台半ば。テレワークの進展、企業業績回復に関心が集まる。

 ただ、オフィス空室率の上昇が止まらない。三鬼商事が4月8日に公表したオフィス調査(対象は基準階面積が100坪以上の主要貸事務所ビル)では、東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の平均空室率(現空床に加え、募集床も対象)は13カ月連続の上昇を見せ、3月は5.42%となった。1年間で4%近い上昇となった。

 一方、大手ハウスメーカーは昨年4月、緊急事態宣言下で受注を大きく落とした。受注の悪化は宣言明けの同6月に回復の兆しを見せる。一方、分譲住宅の価格普及帯で広さへのニーズから好調な推移を見せるメーカーもあった。昨夏以降、戸建ての受注は回復傾向に乗る。

住宅でニューノーマル定着 オフィスにも導入が浸透

 新築マンションや注文住宅、新築分譲戸建て住宅のいずれにおいても、非接触や在宅勤務のためのワークスペースなどニューノーマルに対応した設備や仕様が定番化した。積水ハウスは、戸建て住宅の次世代室内環境システム「スマート イクス」を昨年12月に発売。新型コロナを契機に関心が高まった家の中の空気質の向上ニーズを捉え、約3カ月半で受注棟数は1000棟を超えた。また、最近では、賃貸住宅においてもニューノーマル対応が普及しつつある。

 オフィスにおいてもニューノーマル対応を意識する開発が浸透し始めた。三菱地所の東京駅前常盤橋プロジェクトは、セキュリティゲートや扉の解錠をタッチレスにし、オープンスペースを多くするなどニューノーマル対応を取り入れている。物流施設については、巣ごもり需要に伴うEC(電子商取引)拡大で空室率はほぼゼロ。新たな施設へのニーズも高まる。一方、低迷するホテルは、ワーケーションや定額制などで需要喚起を模索する。

対面からオンラインへ

 新築マンション販売現場ではこの1年で、感染防止の観点から完全予約制での対応やオンライン接客が定着してきた。特にオンライン接客では、遠隔地でモデルルームに来場できない顧客に対しても積極的な情報提供が可能であるなど、従来手法では得られなかった利点が見えてきた。

 不動産営業の現場でも、コロナ禍の顧客行動に対応するため〝非対面化〟が進んだ。例えば、リコーが提供する「THETA(シータ)360・biz」。360度コンテンツを活用したバーチャルツアー作成サービスとして、マンションディベロッパーによるウェブ上での顧客接点の強化をはじめ、賃貸仲介では大手による集客や地場・中小企業による接客・追客業務の効率化の側面から注目を集めた。

 ハウスマートが展開する「プロポクラウド」は、営業担当者に代わって追客を自動化し、メールの開封・物件閲覧状況から顧客の動きを可視化するツール。売買顧客の検討期間が長期化する中で、動きのある顧客の温度感を見極めながら最適な提案方法を探れるため、営業担当者の事業効率化や提案力の強化を担うサービスでもある。コロナ禍で導入が増加し、リリースから2年となる今年3月時点で導入店舗は200店舗を突破した。

 マンションコンサルティングのトータルブレインは2月のレポート(21年の課題と展望)の中で、オンライン営業による決定率アップの効果を高めるポイントとして、「ホームページからオンライン接客予約へのスムーズな誘導とオンライン営業のクオリティアップ、モデルルーム来場時の特別感の醸成や説明ツールの充実」を挙げ、オンライン接客・リアル接客両面での質向上の必要性を指摘する。

入居者満足向上に 「置き配」の普及へ

 新型コロナ収束の先が見えない中、ポストコロナに向けた動きも顕在化しつつある。非体面・非接触のニーズが高まり、ライフスタイルの変化で〝巣ごもり需要〟が増えている。こうした中で、オートロックマンションでは、共用玄関を解錠できずに「再配達」が発生し、配達スタッフの手間だけでなく、注文した入居者の不満につながっている。

 IoTサービス提供のライナフ(東京都文京区)は、Amazonの新たな配達手法『KeyforBusiness』に技術提供し、その社会課題の解決に乗り出した。これは、アプリを通じて、配達スタッフが配達時だけの制限付きで共用玄関の解錠権を付与され、玄関まで届けて「置き配」できる仕組み。東急住宅リースや大東建託などの不動産管理会社でも直接・間接的に、同様なシステムの導入が進んでいる。

 コロナ禍により、不動産取引においてもデジタル化の重要性が一層高まった。17年に本格始動した賃貸取引に続き、3月30日には売買取引のIT重説も本格始動。また、オンライン不動産取引に用いる〝デジタル書面〟解禁も盛り込んだデジタル関連法案が4月6日に衆院を通過するなど、法制度の整備が進んでいる。IT重説の加速化と併せて、顧客への丁寧な説明などを一層意識していく必要があるだろう。

 近い未来では五輪開催の可否を巡り、選手村の「ハルミフラッグ」の動向も注目される。また、新型コロナの収束後は、世界的な財政拡大による金利の上昇が、住宅・不動産市場全体に大きな影響を与える懸念がある。経済情勢をにらみつつ、ポストコロナに向けた柔軟かつ慎重な判断が求められる。