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不動産企業と自治体 宇宙ビジネスへ「機会」提供 都市と地方に「場」の強み

 宇宙産業の官から民への移行が本格化している中、三井不動産が昨年末、戦略的カテゴリーに「宇宙分野」を加え、産学官の多様な「宇宙プレーヤー」たちが集う「場」と「機会」の提供を始めた。同社発祥の地、東京・日本橋の再生計画の一環となる。一方で、ロケットの社会実装がこれからという日本において、ロケット射場などの「場」と「機会」を提供する北海道大樹町の「宇宙のまちづくり事業」では、堀江貴文氏がファウンダーのロケット開発会社、インターステラテクノロジズ(IST社、稲川貴大社長)が、人工衛星の打ち上げに向けて「軌道投入ロケット」(ZERO)の開発に取り組んでいる。稲川社長は、射場などの地面(場)を工場近くに持つ強みが今のところ有利に働き、今後は年間数十回の打ち上げを目指すと話す。

世界の宇宙ビジネスの今に出合える 三井不動産が東京・日本橋で

 世界の宇宙ビジネスは、国際宇宙ステーション(ISS)への移動や物資輸送が民営化され、NASA(アメリカ航空宇宙局)が20年にISSの商業利用を許可するなど、官需から民需への変化が加速されている。日本もNASA主導の月面有人着陸・基地建設の「アルテミス計画」への参画、JAXA(宇宙航空研究開発機構)とトヨタ自動車による月面モビリティ開発、宇宙食料マーケットを創る「SPACEFOODSPHERE」などが動き始めている。

 三井不動産は、04年にスタートした日本橋再生計画の第3ステージとして19年から「新たな産業の創造」に取り組んでおり、宇宙ビジネスはその一環だ。昨年末に日本橋三井タワー内にオフィス、カンファレンス&コワーキングスペースなどを備える「X-NIHONBASHI TOWER(クロス・ニホンバシ・タワー)」を新設、あらゆる産業が関わると言われる宇宙ビジネスの拡大と宇宙技術による地上のイノベーション創出を目指す。

「X-NIHONBASHI TOWER」での「場」の提供はオフィスのほかに、最大150人収容可能のコワーキング&カンファレンススペース、オンライン配信設備を持つスタジオを併設した。加えてJAXAによる「J-SPARC」(今週のことば)の拠点、日本初の民間開発月着陸・探査ミッションを推進する「ispace」のコントロールセンターも設置されている。「機会」の提供は、「X-NIHONBASHI TOWER」や日本橋エリアでのイベント、カンファレンス主催・誘致、様々なプロジェクトへのコミットによる活動の支援を進める。

 2月には、JAXAと協力し、日本企業と海外企業との宇宙領域における連携推進などのグローバルビジネスマッチングプログラムをスタートさせた。

 三井不動産によると、日本橋は五街道の起点として江戸時代から日本中のヒト・モノ・コトが集まる場所で、革新に満ちた「場」だった。宇宙ビジネスは、その革新の伝統を継承するものでもある。「ここに来れば世界の宇宙ビジネスの今に出合えるという『場』と『機会』を提供していく。地権者の合意で進めている日本橋のまちづくりのノウハウは多様な宇宙プレーヤーの集まりにも生かせると考える」と話す。

ロケット実装で宇宙アクセス頻度アップ 北海道大樹町とIST社

 宇宙は新しい産業フィールドであると同時に、そこで生まれる技術が人類の様々な課題を解決する可能性を秘めている。しかし、これを実現するためのロケットの社会実装はこれからである。

 北海道大樹町は、そのロケット実装の拠点として活動を続けてきている。「宇宙のまちづくり」事業を約30年前にスタート、「多目的航空公園」で08年からJAXAが大規模実験に取り組んでいるほか、民間企業や大学も実験を続けている。

 同町では、ロケット射場などを有する北海道スペースポートを整備し、周辺に航空宇宙関連企業が集積する「宇宙版シリコンバレー」の形成を目指している。その財源確保として、企業版ふるさと納税、個人のクラウドファンディング型ふるさと納税を募集するなど積極的な展開を見せている。

 宇宙関連企業は今のところIST社の1社のみだが、13年の設立以来、堀江氏がファウンダーということもあって国内でも大きな話題を呼び、ロケットの町として知名度が上がった。19年5月には、MOMO3号機が民間ロケットとして初の宇宙空間への到達という快挙も成し遂げている。IST社のミッションは「世界一低価格で、便利なロケット」づくりだ。

 稲川社長は「宇宙には人類の課題を解決するという夢があるのだが、そもそもロケットが宇宙空間に飛んでいない。社会実装されていないことがボトルネックになっているので、ロケットが一番大事であるというのが我々の考えで、まずはロケットをたくさん打ち上げて宇宙へのアクセス頻度を上げる。それと今、人工衛星を打ち上げるロケットの開発に取り組んでいる」と話す。

 大樹町に会社を構えることについて、射場という地面(場)を持つ強みの半面、グローバルな人材確保は東京に比べると難しい面があるとも言う。「北海道での事業運営はチャレンジングなことだが、今は順調だ」。

 大樹町側は、観光面でも期待しており、打ち上げ時だけでなく滞在型につながるアイデアを検討中だ。子供たちの教育面での影響も大きいと話しており、インターステラテクノロジズの堀江氏、稲川社長、社員の講演も開催しており、小さい時からこれほど宇宙を身近に感じることができる自治体はあまりないのではないかと言う。

 今後はIST社が人工衛星を打ち上げる射場の整備のほか、将来的には、誰でも打ち上げができる公共的なロケット射場をつくっていきたいとしている。「場」や「機会」を提供することで、宇宙関連企業が進出してくれることを期待する。

伸びしろ大きい宇宙分野 新ビジネスやまちづくりに

 宇宙は伸びしろの大きい分野。三井不動産は、そこに注目し進出を決めた。再生計画としてまちづくりが進む日本橋に宇宙が仲間入りする。そこでの宇宙分野のプラットフォーム構築は、黒子として宇宙プレイヤーに「機会」と「場」を提供し、ビジネスを成功させるきっかけづくりをいかに演出するかが問われる。

 大樹町は、インターステラテクノロジズ(IST社)というロケットベンチャーのここ数年の活動によって、約30年続く「宇宙のまちづくり」が加速している。同社の稲川社長が最も重視するロケットの社会実装が成功を収め本格化すれば、公共的なロケット発射場も整備され、ロケットのまちとして観光や企業誘致の進展が期待され、地方創生のモデルともなりそうだ。

 いずれも、宇宙ビジネスという新たな産業の創出と共に、人類の課題解決という壮大なミッションにつながるプロジェクトである。三井不動産の企業ブランドやまちづくりのノウハウ、日本橋という地の利、大樹町の約30年に及ぶ宇宙のまちづくりの実績、射場としての広大な土地、全国から優秀なエンジニアがつどったIST社のベンチャースピリット。こうした貴重なリソースが今後の展開にどう生かされていくのか、注目していきたい。

(津川学)