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インスペクション説明義務化3年 重説・契約時のリスク把握重要に 意識高まるも、あっせん実施は低調 

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建物状況調査の実施イメージ(提供:検NET)
 18年4月の宅建業法改正から約3年。宅建業者は既存住宅の売買取引における媒介契約、重要事項説明、売買契約の3つのタイミングで建物状況調査(インスペクション)の説明が義務化された。20年4月には改正民法が施行。「契約不適合責任」のリスクを低減するためインスペクションの活用などが期待されるが、制度の理解浸透や消費者認知度の低さから十分とは言えない状況にある。(佐々木淳)

 建物状況調査とは、既存住宅の構造上主要な部分等の状況について、一定資格を有する専門の検査員が、国が定めた基準に準じ調査するもの。検査可能な範囲において非破壊で目視・計測等により確認するため、その住宅に瑕疵(かし)が存在しないことを証明するものではない。同時に、「指摘=欠陥住宅」ということでもない。指摘事項はメンテナンスの必要性を伝えるものと受け止め、保証の利用と併せた活用も手段の一つとなる。大手不動産会社は調査費用および保証費用を自社負担しているケースが多い。不動産FCや多店舗展開の中堅も調査費用を自社負担している例はあるが、地場はあっせんのみという状況だ。

 売主にとっては「引き渡し後のトラブル発生リスクの軽減」や「『検査済み物件』など競合物件との差別化になる」がメリット。買主にとっても「建物コンディションを把握した上で購入できる安心感」や「劣化部分が分かるのでリフォーム費用が積算しやすい」といった利点がある。

 宅建業者にとって建物状況調査の実施そのものは義務ではないが、売主または購入希望者に対する十分な説明が必要だ。特に20年4月の民法改正では売買契約において「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変更した。個人間売買における契約不適合責任の免責特約は可能なものの、売主が知り得た事実を告知していなければ無効となる。すなわち、売主責任が重くなる中で、当事者の意思が重要視され、契約書の条項には具体的な記載が求められるため、重説・契約時の物件の状態把握がより重要になる。宅建業者は売主が契約責任を問われないようにきちんとリスクを伝えることが肝要であり、契約でどのように定めたか、どのように説明したのかが物件引き渡し後の手間やトラブル対応の差に影響する。

大手は自社保証付きも

 国土交通省が宅建業者に実施した建物状況調査の実施状況アンケートによると、回答のあった宅建業者の媒介件数(9万9076件)に対して、建物状況調査のあっせん希望があったのは3.9%(3801件)。このうち2789件(73.4%)であっせんを行い、2408件で調査を実施した。実施割合の78.3%は売主であり、買主(8.1%)を大きく上回る。また、建物状況調査以外の「自社による状況調査や独自調査」を含めると、媒介件数のうち1万1381件(11.4%)で既存住宅の調査を実施。大手が自社保証を含めた取り組みを進めている点や建物状況調査の実施が十分に進んでいない状況がうかがえる。

制度整理と周知の強化を

 調査を実施する事業者側はどう受け止めるか。検NET(東京都立川市、松田隆模社長)が21年2月に実施した既存住宅に関わる調査(建物状況調査、瑕疵保険検査、設備点検等)は約1300件。前年同月から100件以上増加した。状況調査について松田社長は「木造戸建てが主で、築20年以上は不具合が多くなる印象。エリアは様々だが、住宅件数に比例して1都3県の割合が高い」と説明する。

 3年前から大手仲介会社の利用が急増し、中堅へ採用が広がったという。売主側の実施が多い中、「20年末からは、これまでなかった買主側からの動きも出てきた。不動産会社によるあっせんの動きではないか」と推察する。同社では建物状況調査をきっかけに不具合の発見、修理、売買成約という循環を創出しており、特に中堅の仲介会社から満足の声を得ているという。

 不動産テック企業のNonBrokers(東京都港区、東峯一真社長)は建物状況調査実施の課題はDX化されていないアナログな環境にあると分析。「売買主の意思決定が揺るがないよう、最短でインスペクションを実現することで仲介会社のニーズを高めたい」(東峯社長)と、ユーザーが検査事業者をオンラインで比較・依頼できるサイト「インスペマート」と、報告書作成を短縮する事業者向けアプリ「インスペ」を立ち上げた。ユーザーの認知度向上が課題としながらも、1都3県および大阪を中心に、買主側からの実施が進む。

 同社は不動産売却に特化したマッチングプラットフォーム「いえうり」を運営する。この売主向けサービスを起点にした売主のインスペクションもあり、「いえうり」利用者の約2割が実施。物件は戸建てが圧倒的に多く、雨漏りがないことを証明できれば価格上昇の可能性があるといったケースが多いという。ただ、売主側では「掃除の手間」「コロナで人に来てほしくない」など様々な希望があり、買取会社側から依頼されるケースが多い状況だ。

〝使いやすさ〟の分析へ

 宅建業者にとっても消費者からの信頼獲得や、建物に瑕疵があった場合に強気な売主を納得させる根拠の提示などに有効だ。他方、不用意な検査提案や、検査を入れない方向で進めた後で不具合が発覚したという例もある。では今後の実施普及に向けた課題は何か。全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)が毎年9月23日の「不動の日」にちなんで実施する消費者調査では近年、インスペクションの認知度は2割程度で推移。消費者および宅建業者の積極的な理解が求められる状況だ。全国の宅建協会会員の支援事業を行うハトマーク支援機構は「民法改正も踏まえ、制度や効果の理解について会員へ周知を継続する」としている。

 DX化に加え、インスペクションを行うことがインセンティブとはならないか。仲介会社にとっては、取引の長期化の可能性や、それに見合う対価がないという懸念が二の足を踏む要因の一つ。東峯社長は「顧客の利益最大化を考える仲介会社はインスペクションにも積極的に取り組むべきだが、差別化よりも改悪の印象となるようだ」とした上で、「現状の既存住宅流通は、車検を受けたことがない車を売買しているようなもの。認知拡大にはシンプルに車検のような義務化も必要ではないか」と指摘する。

 既存住宅に係る調査が複数存在し、その関係性が複雑な点も課題に挙がる。国は建物状況調査における検査基準の合理化や明確化を含め、中長期的にはドローンや点検ロボットなどを活用した検査方法の精緻化・高度化も課題と受け止め、検討している。

 既存住宅の取引に向けた課題整理は続くが、宅建業者は何をリスクと捉え、取引を進めていくべきなのか、改めて考える機会なのではないか。

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